このレビューはネタバレを含みます
すごくすごく刺さったし面白かった。
主演の女優さんの美しさと衣装のデザインのかっこよさに痺れた。どの衣装もすごく個性的で、好きだった。
主人公の女、名前も出てこず、セリフもほとんどない。ベルリンへの片道切符だけを買って空港で降り立つ。真っ赤なドレスを着て、高いヒールを鳴らして歩く。
そこでナレーションが挟まれる。
「飲むために生き、飲みながら生きる、酒飲みの人生」
この女の酒飲みの旅がこれから映し出されるというナレーションの通り、主人公はずっと酒を飲むために街を歩くだけの映像がひたすら続く。空港でも飲んでるし、その後も本当にずっと飲酒している。
その飲酒するシーンがずっと映し出されるのだが、そこに3人のおばさん「社会問題」「正確な統計」「良識」として、着いて回る。主人公が飲酒するたびに、これらの社会規範的なことをグチグチ言ってくるのだ。だが、主人公はそんなことはお構いなしに、ひたすら飲み続ける。ここもわかりやすく社会に中指立ててる感じですごく好きだった。
また、女性への男性の気持ち悪い視線や、女性が1人で酒飲んで酔っ払ってることがおかしい等、女性の生き辛さもきちんと描かれている。その全てに中指立ててすごく良かった。
主人公はとても辛いこと、酒を飲んでいないと生きていられないほど何か辛いことがあったのかもしれない。そこの背景は描かれないが、その辛いことを忘れるために、知らぬ土地で酒を飲むことに。しかし、飲んでも飲んでもその辛いことは忘れられないような印象があった。
鏡が多用されるのだが、それが映るたび、嫌でも、自分と向き合わないといけないという感じがして、どんどん辛くなっていって、現実を見ないようにしたいのに、それでも現実が迫ってきて、それで忘れたくて飲酒するというループになって行くように感じた。最初は明るい色のドレスを着ていたのが、どんどん青や黒と暗い色になって行くことでもわかる。
また、途中から現実なのか、自分の中での空想なのかもあやふやになって行く感じでどんどん自分というものに囚われて行き、ベロベロになり、何もかもどうでもいい感じになっていくのもその怖さみたいなものが美しい画面からヒシヒシ伝わってくる。その美しさが狂気染みていた。
物語はただアル中女が酒飲むだけなのにここまでの強いメッセージ性を持たせられるなんて本当に良い映画体験になった。
最後の散々鏡と向き合ってきた主人公が、全面鏡の部屋で高いヒールで鏡を割って終わる。囚われの自分を突き破っていくという良い方向で終わってると思いたい。