忘れそう

海辺の彼女たちの忘れそうのレビュー・感想・評価

海辺の彼女たち(2020年製作の映画)
5.0
正直めちゃめちゃ打ちのめされました。
お金儲けというシステムの、大きな渦に巻き込まれて、本来の目的を見失ってしまった彼女たち。冒頭の暗闇を逃げるシーンからやりきれない気持ちになった。『逃げる』ということは自らの尊厳を放棄してしまうのだということを彼女たちは知っているのだろうか?
新しい職場であり住処を得た彼女たちが流す涙。ここでも自らの安定の生活よりも、祖国の家族の生活費のことを考えている。結婚に幸福を願う姿も、自分の存在を見失ってしまっているかのよう。
3人が涙を流すが、主人公のフォンさんが流す涙は他の2人とはちょっと様子が違っていた。
そしてその後フォンさんに起きる不穏な出来事。(ダジャレじゃないですよ)
この作品を観ていて彼女たちの平安をずっと願っていた。どうか悲しいことが起こらないように、と。
それほどにまっすぐで美しい彼女たち。
今すぐには無理だとしても、いつかきっと自分の目的を見つけて自分のために生きて欲しいと願った。
物語を彩る雪のシーン、海のシーン、カモメのシーンに、ヒリヒリした心を慰められた。そして静寂の中に聞こえる足音や波の音に、彼女たちの彷徨う孤独な心や、行ったり来たり波のように漂ってしまう決意を感じた。
最後のシーン、フォンさんがある決意をする瞬間まで、バックに流れる波音を聞きながら、彼女と一緒に私の心も揺れていた。いつも、どちらかと言うと他の二人の後をついて歩いているようなフォンさんが決めた最後の行動が痛くて悲しくて涙が溢れた。
最後に彼女を照らした光が暖かでありますように、いつか、光に、彼女たちが手を伸ばせますようにと願わずにはいられなかった。
ポレポレ東中野では7月30日まで上映延長が決まったとのこと。どうかたくさんの人がこの作品に出会えますように、フォンさんと共に心を揺らしてみて欲しい。
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