lil谷

ノマドランドのlil谷のネタバレレビュー・内容・結末

ノマドランド(2020年製作の映画)
4.2

このレビューはネタバレを含みます

胸苦しいほど切なく、意外にもポジティブな映画であった。話が進むにつれて、なぜファーンは定住しようとしないのかという疑問が解き明かされていく。

羽振りの良さそうな姉夫婦や、ノマド生活中に出会い、今は息子夫婦の家に定住している男友達から一緒に住むよう提案されているにもかかわらず、ファーンは再び路上に出てしまう。会社の倒産で社宅を出ざる得なかったことがきっかけになっているが、今のファーンは貧困のために路上生活をしているのではないことが分かる。むしろ定住を望む貧困者であれば、問題はより簡単に解決しただろう。

「路上のソリスト」や「足跡はかき消して」で描かれていたように、統合失調症や従軍経験で受けた心の傷が、定住することで悪化してしまう人たちもいる。そのような人たちにとっては、移動し続けている状態こそがホームなのであり、心の安定を得ている。夜の通りを一人で歩いているシーンなど、愛する夫に先立たれたファーンの孤独感を感じさせるが、それは定住者でも同じことであり、彼女の場合は定住したほうがより孤独を感じるのだろう。

シンプルなストーリー展開でも、見入ってしまうような美しい自然描写とともに引き付けられる。唯一難点を挙げるとしたら、息子を自殺で失った男性のせりふがやや解説的に聞こえたところだ。終盤近くのシーンで「あぁ、まとめに入ったな」と思ったが、実際彼の言っていることがこの作品の要点でもある。
「ノマドの多くは高齢者だ。皆悲しみや喪失感を抱えている。それでいいんだ。当然だ。この生き方が好きなのは最後の『さよなら』がないんだ。いつも『またどこかで』。実際そうなる。1カ月後か数年後か分からんが、また会える。だから私は信じていられる。私はまた息子に会える。君もボーに会える」

季節労働というと作物の収穫を連想するが、一番多く出てきてきたのがアマゾンの巨大倉庫でのギグワークというのも現代的だなと思った。
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