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アイダよ、何処へ?のsnatchのレビュー・感想・評価

アイダよ、何処へ?(2020年製作の映画)
4.3
私には、こういった歴史の惨劇を観る事しか出来ないけれどと見始めたが、人々の心情に同化していった。
隣人が異なる民族出身で、ある時から自分とは敵同士となり争いが何年も続き紛争へと巻き込まれ家族と引き裂かれてしまう…
以下、内容に触れています。






1995年旧ユーゴスラビア解体後、イスラム系のボシュニャク人とクロアチア人とセルビア人が対立し「民族浄化」と称してスレブレニッアに住むボシュニャク人8372人が虐殺された事実を基に描いた作品。
この惨劇の前日と当日の、住民に施される命をつなぎ止める方法が何一つない無情な時間経過を映している。
誰一人死にたくなかった。
映画に虐殺の描写はありません。
でも、死が生々しく目の前に近づいてくる。

国連平和維持軍が駐留して安全地帯だったはずのこの街。相手に最後通牒は出したからと繰り返す兵士も、国連本部からこの状況がなす術も無く見捨てられており撤退する行動しか浮かばない…その通訳として住民との間で動かなければならなかったアイダの苦悩と、絶対に何としてでも自分の息子達だけは救い出したいという気持ちが火傷しそうなくらいラストまで続く…私もそうなると思う…

国連キャンプのゲート前で救援を待つ二万人が映るシーンは胸が張り裂ける。
誰だって殺されたくない。

最後、被害者も加害者も同じ人間なんだとゾクっとする描写と同時に、この子どもたちにこの憎しみを語らない教えない…それを教えて何になると言っているのだろう。


終わった…
この映画があっても、人間は争いを繰り返さずにはいられないんだなって……
全身悲しみの塊りになったアイダの姿は、家族を救えなかった自分を一生許せない他の生き残った人々の気持ちとも重なる。でも同時に、孤独に死を選ばずにアイダが、あの地であの場所で立っている人間の尊さにも打たれた。

監督さんは十代でサラエボでこの紛争を生き抜いた女性で、かつては映画産業が盛んだったが今は年に1本しか映画製作できないボスニアで、この惨劇をフェイクニュースだと言う人々もまだいる中、多くの国の人々の協力のもと作り上げたそうです。勇気ある作品です。1人でも多くの人に観てほしいと思いました。
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