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ニューオーダーのkitoのレビュー・感想・評価

ニューオーダー(2020年製作の映画)
4.0
終始、衝撃的な展開に目が釘付けになり、観終わるとしばらく呆然となった。これは遥か昔、「ダンサー・イン・ザ・ダーク」や「セブン」初見時に感じたインパクト並み、いやそれ以上、、、

メキシコが舞台のインディーズ映画としか知らなければ華麗にスルーしていたと思うが、これもだいぶ前にトレーラーを観ており、Amazonをつらつら眺めていて記憶が蘇った。

メキシコで広がり続ける貧富の格差に対する抗議運動が暴動化、裕福な主人公一家を悲劇が襲うというお話。一家は自宅で娘の婚礼の宴を開いていて、父親の仕事関係でエグゼクティブも多数集まっている。そこに暴徒が押し寄せ、平時は従順だった使用人達までもが略奪を始め、地獄絵図が広がっていく。

この超豪邸の敷地を囲む壁は非常に高く、いかに治安が悪いのかが窺える。そんな壁を超えて侵入してくる暴徒がまるでゾンビのようで不気味。このシーンをトレーラーで観てゾンビもの⁈かと思ったくらい。そして、結婚という幸せの絶頂だった娘にさらなる悲劇が襲う、、、

劇伴もなくドキュメンタリー調の映像に息を呑む。特に暴動シーンはコストがかかってそうでリアル。メキシコの事情にはとんと明るくなく、ブラジルとともに治安の悪さだけが印象にある程度。本作はフィクションだろうけれど、身代金目当ての誘拐は程度の差はあれど実際もこういう展開が普通にありそうで恐ろしい。

本作がこの手のエンタメ・ハリウッドメジャー作品と異なるのは、一般市民が無表情に淡々とこの非常事態を受け入れている様子。大人しい日本人でももう少し足掻きそうな気がする。暴動の後の復興を粛々と始める姿には生気がなく、エキストラまで演技上手なのか、それともひょっとしてこれって現実まんまで演技いらずにできているのか、とまでつい疑ってしまう。そう言えば「シンドラーのリスト」でも虐げられるユダヤ人は無表情だった。

こういう展開を生理的に毛嫌いする向きも多いと思うし、実際、映画祭では賛否両論だったという。私もたいていは映画をエンタメとして楽しみたいと思っているのだけれど、こういう作品を拒否も否定もしない。映画はコントロールできる夢なのだから、全力で空想を広げるのが正しいと思う。
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