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AWAKEのsomaddesignのレビュー・感想・評価

AWAKE(2019年製作の映画)
5.0
ロンTのメッセージ性が強すぎる

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幼くして将棋の天才と期待され奨励会に入った清田英一だったが、そこは全国各地から将棋の天才少年の集まる場。数年後、同世代・浅川の強さと才能の前に破れた英一はプロの道を諦めてしまう。普通の大学生になるべく21にして大学生となるが、将棋以外何もしてこなかったので社交性もなく、ぎこちなく居場所ない大学生活を送っていた。そんなある日、ふとしたキッカケで将棋AIの世界を知る。その定跡に囚われない自由で独創的な指し手は、まさに彼が理想とする将棋だった。変わり者の先輩・磯野の手ほどきを受けつつ、史上最強の将棋AI開発を目指していく。
2015年に実際に行われた、プロ棋士vs将棋AIの対局に着想を得て、商業映画初監督となる山田篤宏が書き下ろしたオリジナルストーリー。

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将棋界のレジェンド・米長名人はかつて「兄貴達は頭が悪いから東大に行った。自分は頭がいいから棋士になれた」と言ったとか、言わなかったとか。発言の真贋はさておき、プロになる以前に奨励会に入ることすら卒倒レベルの狭き門。プロ将棋界の天才同士の切磋琢磨っぷりはいつ見ても感動しちゃう。
2020年の数少ない明るい話題といえば「藤井聡太二冠誕生」くらい。観る将ならずとも、前代未聞の快挙と同時に、現代将棋とAIの練磨の戦いは楽しめるハズ。

2015年の電王戦の出来事を知ってて観たので、クライマックスのある展開を予感しながら見てた。まさかアレを再現するのか?と。
対局そのものは人間vsAIだけど、自分にはやっぱり人間vs人間の青春物語に見えた。(ソフトも結局人の創造物という意味で)


陰気で短気な清田と、明るく社交的な浅川の対比。一見わかりやすい陰陽の関係のようで、それぞれに勝負の苦しみが透けて見えて、全く違う世界で同じ苦しさに立ち向かってるのが良かった。
それぞれ違う葛藤を抱えてるハズなのに、俯瞰すると同じモノと戦ってるような。周囲の期待や不甲斐ない自分との戦いだったり、負けを認められらない未熟さ。未完成な自分を自覚しつつも、傷つくのが怖くて成熟までの道程に一歩踏み出すのが怖く現実から目をそらし続けてしまう。わかるぞ!

詰んでなお投了しなかった幼児性を捨て、そうまでした相手の執念に敬意を思う清田の晴れやかな顔がハイライト。


将棋教室で教わる「克己復礼(私情や私欲に打ち勝って、社会の規範や礼儀にかなった行いをすること)」。相手への敬意や、勝負を通じて得る人間的な成長のドラマ。将棋特有の勝ち負けよりも大事にしてる世界を見せてくれたような清々しさ。

いまやソフトとプロ棋士の対決の時代は終わり、研究のためにソフトを活用しないプロ棋士はいないとも聞く。
初タイトル棋聖獲得時の藤井聡太先生が仰った「今の時代においても、将棋界の盤上の物語は不変だし、自分としてもそういう価値を伝えていけたらと思う」のコメントが含蓄ありすぎて痺れちゃう。なんなら今作のテーマとも偶然のリンクを感じて、より一層意義深い一言と感じる。


吉沢亮の陰気で不健康そうな佇まいが良かったし、若林竜也が演じた浅川の淡々とした仮面の下に苦悩が透ける感じも良かった。
何より磯野先輩こと落合モトキが良かった。超早口で専門用語をまくし立てる姿の面白さ。専門用語が付け焼き刃に聞こえないのもすごいし、あれだけ早口なのにちゃんと聞き取れる滑舌の良さも凄い。一見無愛想で気難しい人物のようで、ちゃんと有能で友人の心身の心配もしてくれる情に厚い一面もある。清田にとってメンターであり親友であり、本作の実質ヒロイン的な好人物。いい役者さんななー。


個人的にツボだったのが、清田の私服。絶妙なダサさと言うか「どこで売ってるんだ?」て服ばかり。スーパーの軒先にあるようなノーブランドの服だったり、ラルフローレンの○クリセンスが面白かった。POLO WORLD、TWIN POLO、US POLO、POLO SPIRITS(日本語にするとポロ魂)……とかは観たことあるけど、清田のロンTにデッカク「TWIN POLO USA SPIRITS」ってナンダ?全部乗せってあるのか! そんな服でもそれなりに着こなせちゃうからイケメンってすごい。

欲を言えば、(蛇足かもしれなけど)清田の人間的な成長がもう少し描かれて欲しかった。馬場ふみかや森矢カンナといった女性キャラが、お花以上の役割がなくて、もっと物語に有機的に絡んでもいいように感じた。磯野の同居人と浅川の姉のシーン必要だったのか?

3本目
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