世の中にはいろんな考え方や主張の人がいる。
だから、水俣病に苦しむ人たちや関わる人たちの中にも、いろんな考え方や主張を持つ人がいるのは、考えてみれば当然のことなんだよな。
この映画では、闘い続ける人たちを追っていたけど、闘うのを諦めた人も数多くいたんだろう。
フィクションの世界において、私たちは「許しの物語」が好きだ。それはたいそう美しくて心動かされる物語だから。でも、現実に「許す」ってことは物語のようにはいかないのを強く感じた。
水俣病は末端神経ではなく脳の障害という研究結果を唱えた医師が、「『腹が減る、腹がいっぱいになる、怒る』が脳のいちばん原始的な部分」と言っていた。「怒る」ということは日常生活ではネガティブに捉えがちな感情だけれども、人間が生きていくのにとても必要な感情。闘う人たちにとっては「怒る」ことこそ生きるエネルギーになっているのかもしれない、と思った。
行政への憤りと無念を感じつつも、最も心に残ったのは、登場する人々の力強く美しい生だった。
人々の素の姿を映し出し、「えっ、そんなにストレートに聞いちゃっていいの?」と思えるような質問をする原一男監督は、人の懐に入る天才でもあるんだろうな。