こーたろー

オクトパスの神秘: 海の賢者は語るのこーたろーのレビュー・感想・評価

4.5
普段食卓に並ぶタコがこんなに愛おしく見えるとは思わなかった。ドキュメンタリーとして生物観察を超えて、恋愛にも似た監督とタコとの関係性に感動させられる。

映像の美しさはもちろんのこと、タコの生態に驚かされ続けた90分だった。彼女らは知的生物であって、自身にとって脅威となる相手かどうかを完全に判断できていたことに驚愕した。種族をも超えて2人の間に築かれる信頼関係に気がつけば夢中で画面を見てしまうし、彼女がサメに捕食されるシーンは完全に監督と同じ心情になった。しかし、あの場面で監督のタコを助けたいといった2人の中で積み上げた関係性の中にある気持ちと自然の摂理に反する行動は取りたくないといったドキュメンタリーを撮る監督の熱意との葛藤の描写が素晴らしかった。

映画冒頭、仕事で悩み自身の目的すら見失っていた監督は彼女と接することによって南アフリカの海に魅せられ、次第に自分がなにをするべきかを自覚していく。
そして、映画ラストでは彼女が自らの術で生き延びた末に産卵し、何十万匹といった子供たちが海中で漂っているシーンが描かれ、生命の尊さを感じさせられると共に監督自身も彼女と接していたことで人生の大きな目標を再認識させられていたことに気がつく。
監督は本作を撮り終えた後、息子に海の素晴らしさを通じて生きるうえでの目標や自分らしさというものを身につけて欲しいと最後には願っている。人もタコも種族は違えど子を思う愛情は同じであって、この地球上に生まれたすべての種族が何億年も前から生物としての愛の繰り返しの中で生きているんだといった壮大なテーマに心を揺さぶられた。