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映画 太陽の子の都部のレビュー・感想・評価

映画 太陽の子(2021年製作の映画)
2.7
柳楽優弥、有村架純、三浦春馬の三名による演技のアンサンブルを中心に織り成さられる本作。原爆投下前の日本でも原爆開発の研究に勤しんでいた若者の目線を通して戦争の姿形を炙り出すという観念は面白いものの、実態はその設定の妙を活かしてきれているとは到底思えない。

本作のかろうじて褒められる点は俳優達による演技である──太平洋戦争により自国と国民が窮地に晒されている中、しかし純粋に原爆の研究を続けそれを完成させたいと願う科学者としての譲れない性に葛藤する若者を柳楽優弥が演じており、ある種の狂気的な一貫性と人間らしさの情に揺れる姿は印象的だ。例のおにぎりのシーンは回想や台詞があると一気に陳腐になっていたと思うが、無言の咀嚼による表情の変化やそれまでの経緯を踏まえたそれとして"そうすること"の説得力を得ていたからとても良かった。有村架純は演技面では本作においてハイライトには恵まれていない印象だが、良くも悪くも戦争の先を見据えた女性の立場を感じさせる振る舞いが毅然としているため存在感として強く、これに関してはドラマの中で浮いているとも取れるが個人的には違和を感じるほどではなかった。一時帰省した特攻兵を演じる三浦春馬は翻って役どころは普通であるが、薄幸感を伴わせた人間の姿かたちにピタリと嵌る演技が連続するシーンが多く、三人の思い出の海辺で自殺を図る場面が白眉でしたね。みともなく泣き腫らすの哀れでいいよね。

と主演三名を中心とした演技の妙は認めるところだが、作劇面では半端な点が多く、純粋な科学者であること──それが意味する大量殺戮兵器の制作──の恐ろしさと素晴らしさに触れるのが本編であるが、描写としてはもう一歩欲しい場面が多く目新しい題材なのに保守的な画一的なシーンが多いのはコンセプトを考えるに不満だった。

あくまでも物語が表層的なのである。

研究所の乱闘などは好ましく感じるが、民間人/兄弟間/特攻兵と複数の視点が混じるからこそ生まれるシーンは月並みで、戦争らしさを担保させる為の付属品でしかない。これらがおにぎりのシーンに集約されるのは理解できるが、じゃあ幼馴染と弟の存在がドラマの最適化に本当に必要かと考えるととてもそうは思えなくて、変則的な戦争映画であることに作品がその姿を委ねきれていない──弟は回想だけの登場とかに割り切った方が話としてはどう考えてもスムーズだったよな、とか。

それと比較すると子と母の距離関係は好ましく、比叡山を巡る場面の科学者であることと息子であることのせめぎ合いを母として受け入れる場面はこの作品の旨味がかなり乗っていたと思う。こういう場面に恵まれることを期待したいのだが、題材に対する毒にも薬にもならない場面が多すぎたな……。
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