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天外者の都部のレビュー・感想・評価

天外者(2020年製作の映画)
1.6
駄作、と思わず切って捨てることが出来てしまう程度には全ての要素に至らなさを感じる作品というのが率直な感想で、演者贔屓による虚像の高評価と実像の乖離をその完成度からひしひと感じる残念さを拭えない一作。この映画には幾つか問題点が上げられるので、史実劇を映画にする上での反面教師としての資料価値はあるかもしれません。

まず120分弱の映画それも実在した偉人を語る作品であるにも関わらず話に中身がない。

物語は五代の優れた才能の開花とそれによる時代への影響を語るという体裁を取っていますが、こと本作は出来事の起こりと結果の二段オチを描くばかりでその『変化』に当たる功績部分を大幅にカットするという信じ難い構成を取っています。これは五代の人間性に迫る個人的な事柄にも同じ事が言えて、出来事を通した五代や周囲の人間の口から零れる至言の数々は、しかしまるで響かないという結果を生んでいる。当たり前です。努力らしい努力を、尽力らしい尽力を、映像の描写として描かなければそれはただの淡々とした成功談でしかありません。

こうした形で史実劇の妙を放棄しているのに、さして面白くもない恋愛要素を挟んでるのも極めて腹立たしく、これにより貿易商として優れた五代のエピソード群に男女同権的な主張を差し込んだことで話のピントがズレているというのもあるんですよね。

それはあくまで結果論の一つであり、描写が追い付いていないためか思想の先見性に優れていたという表層的な語り口を際立たせてしまっているだけのように感じられます。

この五代友厚という人間をまるで魅力的に描けていないのも欠点でしょうか。前述したように結実までの努力の過程を映さない本作は、五代の人となりの綺麗な部分だけを切り取って見せている印象が強く、上っ面の綺麗事を緩急なく並べているような感覚に襲われます。

また三浦春馬氏の演技も後半からは締まりを得ていますが、前半は酷いもので──この映画 役者の演技の指向性が全部バラバラでそこもまるでダメなんですが──口ばかりの青二才の側面ばかりが目立って、観客の好感を得てそこから人間としての複雑な深みを見出すに足らない役回りなのがどうなんですかこれは……。

モデルに対するリスペクトを感じさせない浅慮な人間像なのが目に見えていますし、少なくともこの映画から天外者と呼ばれるに至った才知は読み取ることは出来ません。だから最後のシーンも説得力がなく感動も何もないのが……、全体的に『史実映画ってこんなもんでしょ?』みたいなエピソードの重ね方が伺えるのもよろしくないですね。

雑に坂本龍馬や伊藤博文を出しておこうみたいな魂胆が透けて見えるのも嫌な感じ。いや、出すのはいいんですけど彼等の功績もまた過程を抜いて描いてるので、取り敢えず史実に従って登場させた感が香ばしいので作品のディテールが台無しで。やるならそこはちゃんとしろよ、と。
序盤から伊藤博文の成功が五代の反応だけで済まされてる時点で既におかしかったんですが、最後までその点は改善されないまま。

そもそも題材が大河ドラマ向きだから仕方がないと納得するのも出来ない感じで、大事な史実要素はあっさり済ませる癖に逃走や恋愛などの天外者であることに寄与しない至極どうでも良い部分には尺を割くので、本当どうなってんだよこの映画はと不満ばかりが漏れる鑑賞と相成りました。

余談として私も三浦春馬が好きなので彼の映画はよくよく見るのですが、作品評価とそれは別軸であるべきですし。愛着ある役者の遺作とはいえ作品の根本的な完成度を無視した記念評価的な甘えた態度は、芸術やそれに身を捧げた当人に対して却って大変失礼ではないかと私は思います。
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