垂直落下式サミング

サマーフィルムにのっての垂直落下式サミングのレビュー・感想・評価

サマーフィルムにのって(2020年製作の映画)
5.0
勝新推しだという時代劇女子をみて、お腹の中で砂利がつかえるみたいな不快感が…。まさか、これが同担拒否だというのか…っ!!
JKの口から『座頭市』『椿三十郎』『眠狂四郎』『大菩薩峠』などのタイトルが飛び出す異空間。劇中で参考としてあげられるのが『座頭市物語』なんだけど、座頭市は一作目こそ至高タイプの人って、僕の感性と当たらずも遠からずなニアミスしてくる場合が多いので、なんかムズムズしてしまう。
同担拒否に目覚めたことによるショックで悪しき波動を纏ってしまったものの、ハダシたちが映画を撮ろうと決断してからは、だんだんとコイツわかってねえな感までも愛おしく感じてしまっていた。尊い。青春だ。
薄汚れた僕も、これで存外にキラキラした清いものが好きだったりするのである。実に初々しい。この作品に出ている若い俳優さんは、すごく期待できますね。みなさん素敵でした。
未来の名匠ハダシ監督は、いい具合に鬱屈した自意識過剰オタクっぽさがいい感じ。不機嫌で内向的な少女だったが、クリエイティブに目覚めてからの情熱が止まらない。デビュー作『武士の青春』への入れ込みかたが将来有望であるし、出来上がった作品をみる限り、なかなか編集センスがいい。
そして、不人気天文部なビート板ちゃん。芋めのボブカットに銀ぶちのでかいマル眼鏡とネクラパーツのモンタージュ、それを補って余りある透明感。最初はほとんど化粧っけなかったのに、最後のほうはリップグロスしてて綺麗だったな。友達と仲よくなれてウキウキだったのか、去ってしまう想い人を意識したのか、どっちにしろ、めちゃキュンじゃん。整った御尊顔に見惚れてしまった。
剣道女子ブルーハワイは、顔つきから体つきから等身大の運動部って感じを醸していて、腐っても鯛なアイドルちゃんにはない魅力を振り撒く。雷蔵様推しでありながら、年相応にキラキラ青春ラブコメ好きでもある。おませだねえ。
そんで、時をかける凛太郎。本来だったらチームのなかで一番年下であるため、ずっと敬語なのがいい。『おっさんずラブ』の人でしたか、それにしても時代劇が似合いますね。姿勢がいいんだと思う。
ほか、男子チームも素晴らしいアンサンブル。ダディボーイ。駒田。増山。小栗。ひとつの目的のためにかき集められた仲間たち、スクールカーストも、そこで所属するグループも違っていた彼らが、この夏だけ青春を分け合い共有する。末梢の群像劇として、彼らを目で追っているだけでたのしい。
ハダシがライバル視している映画部部長は、ベタベタキラキラ恋愛漫画原作の化身のようなリア充女子だが、少なくともハダシよりは周囲の人間に愛される才能があるし、後に彼女もハダシに負けないくらいの熱い思いを持っていることがわかる。好きと伝えること、それは勝負すること!関係や空想を愛でる理想家ではなく、ドゥーザベストの実践派、これもひとつのクリエイティブの在り方だ。
クライマックスの上映会で印象に残ったのは、ジャージを着た教育指導の先生の表情。映画部の恋愛映画は微笑ましく鑑賞していたのだが、ハダシたちの時代劇になると、腕を組み直しながら「おお、やるじゃん」みたいな反応してんのが可愛くて好きだった。
未来人曰く、何十年後か、何百年後には、映画という文化そのものがなくなっちゃってるらしい。なるほどね、なくなっちまうもんは仕方ないか。他にも、面白いもんがいっぱいあるんでしょう。
僕みたいな楽天家だったら、わりと簡単にそんなもんだろと納得できるけど、映画大好き高校生にこれを受け入れろってのはムリだわな。まして映画監督を目指している夢と希望に満ちた花の十代、感性のはじけるクリエイターの卵にとっては残酷なカミングアウトだろう。
でも、たとえ未来に滅びが待っていても、自分の努力がいつかは忘れ去られても、「撮りたい」という気持ちまでは奪えない。そうでしょう?
予想を大きく裏切るラストの意外な展開は、いまここにしかない物語の唯一性によって、認識の分断を強引に突破しようとするパワー系。創作論とかタイムパラドックスとか関係なしに、ぜんぶ好きにやらせてあげたくなってしまう。世の中は勝負の連続。時間と戦え!世界と戦え!これが青春だァ!オラァ!