netfilms

ミッドナイト・スカイのnetfilmsのレビュー・感想・評価

ミッドナイト・スカイ(2020年製作の映画)
4.1
 北極圏のバーボー天文台。色とりどりの防寒服がかかった建物の中に人の気配はない。髭面の年老いた男オーガスティン博士(ジョージ・クルーニー)が、絶望的な表情のままゆっくりとスプーンで食べ物を口に運ぶ。2049年2月、3週間前に起きた出来事が地球の運命を変えてしまう。 人類はそれぞれ僅かな可能性の中決断を迫られる。男は既に末期ガンで余命いくばくもない状態だし、残される身寄りもありはしない。天涯孤独な男は毎日輸血をして何とかかろうじて生き残っていたのだが、この天文台にいる人間は皮肉にも彼一人だけではなかった(はずだ)。COVID-19に揺れる世界から見た今作の描写は何かの冗談のように胸に迫る。人類は生きるか死ぬかではなく、どこへ逃げるかの選択を迫られている。博士は死を目前にし、かつての自分の姿を顧みる。「K-23」という星に魅了され、その星が地球人たちが住めるのではないかと研究を重ねた博士は、残念ながら子宝には恵まれなかった。だが皮肉にも老い先短い老人の前に、黄色いワンピースの少女が取り残されていた。彼女は博士に戸惑いながらも、博士の傍から片時も離れようとしない。

 アンドレイ・タルコフスキーの傑作SF『惑星ソラリス』を想起させる物語は、バーボー天文台に残る決断をしたオーガスティン博士と、宇宙船アイテルの乗組員たちの姿を並行して描く。宇宙船アイテルは「K-23」から地球への帰宅途中で突如NASAとの通信が途絶え、壊滅的な地球の状況を知らない。不幸にも小規模な隕石が衝突し、船外での修復作業を余儀なくされる頃、博士は船員たちに何とか地球の状況を伝えようとしていた。ジョージ・クルーニーは複雑な構造を持つ物語を、時系列を紐解きながら観客にわかるように丁寧に提示している。SFファンにとって懸念事項である宇宙船のディテイルはややCGっぽいが、『ゼロ・グラヴィティ』のような無重力表現が好きな者にとっては堪らない。その中でも乗務員の身体から赤黒い血の塊が沸き上がる場面はかなりショッキングで、観る者を選ぶ。クライマックスは涙なしには観られない。人間は生まれながらに何かの使命を持ち生きている。残された種は、母なる地球という何億光年の世界で生まれ、天命を全うせんとする。意識が朦朧とした男が見た幻視は、宇宙×地球という壮大な人間のロマンを切り取ったほんの僅かな一部に過ぎない。
netfilms

netfilms