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オールドのsomaddesignのレビュー・感想・評価

オールド(2021年製作の映画)
5.0
出来ることより出来ないことのが増える。可能性が狭まり、必ず来るのにいつかは分からない終わりに怯える。半生を半日で駆け抜けるホラー。

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断崖絶壁に囲まれた人里離れた美しいビーチ。そこでバカンスを過ごすためやってきた家族。楽しいひと時を過ごしていたが、息子と娘の姿が見当たらなくなってしまう。ビーチにいるほかの客たちにも行方を尋ねるが、そんな母親の前に「ここにいるよ」と姿を表したのは青年へと成長した息子と娘の姿だった。

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シャマラニストを自認してる割に、よく「シャマラン」か「シャラマン」か分からなくなる。
エム内藤シャマラン、チャゲ安藤ASKA。
サントリー ニューオールドは新しいのか古いのか。

いやはや面白かった!
シャマラン映画らしい、ネタバレなしで人と話すのが難しい。

恐怖の根幹にあるのが「老い」。
実人生だと毎日ゆっくり迫ってくるものだけど、それがたった1日で過ぎてしまう。誰しもいつか死ぬけど、こうも心の準備もヘッタクレもないと怖いったらない。や、ゆっくり迫ってる怖さもあるから、人によっては「あの綺麗なビーチで最後の1日を過ごしたい」ってニーズもあるような。終活の場として活用してくれてれば、こんな騒ぎにもなるまいに……。

思えば年齢を重ねる毎に時間の経過が早くなった。子供の頃ならあっという間に感じてた1日も、今や10年があっという間に感じてる。この調子でいくと100年もあっという間に感じるようになるかもしれない。
若く自信に満ちて「なりたい職業が多過ぎて決められない!」と感じてた頃は遠く、「できれば働かなくてもいい暮らし」に変わった。やりたいことよりやれること。出来ることは減る一方。この先も自分が確実に出来ることといえば、食べ物を排泄物に変えることと、歳をとることくらいだが、それすらいつまで出来るか分からない。
誰にでも起こる変化で、身近な出来事なのに、そのスピードがちょこっと変わるだけでこんなにも恐ろしい。

ほぼ1日で50年が経過してしまうので、否応なしに人生の儚さに向き合うことになる。老いと戦うタイムサスペンスでもあって、失われてく美容や健康についてどう受け入れていくか悩ましい。

パパ・ガイを演じたガエル・ガルシア・ベルナル。メキシコ出身で映画「NO」のイメージが強いので、スペイン語以外に英語もペラペラで驚いた。痩身のイケメンだけど、ちょっとトボけた顔に見える瞬間があったり親しみやすい。真面目な家族思いのいいパパな一面と、優柔不断で重大な決断が苦手な一般人を好演。
途中からピンボケの一人称視点になるけど、不便さの反面その眼差しの温かさ。見ているものへの愛に満ちてる演出が泣ける。

ママ・プリスカはヴィッキー・クリーブス。ドラゴンタトゥーの続編「蜘蛛の巣を払う女」でミカエルと不倫関係にあるミレニアムの女編集長役で記憶に新しい。ちなみにプリスカはラテン語で『古い』とか『古代の』って意味もあるそうで、博物館勤務のママの性格と物語上の役割を象徴してる。未来志向ってより将来のリスクばかり気にかけるパパと対照的で、過去の出来事に捉われがち。慎重派な二人なのは共通しててお似合い夫婦。……そんな夫婦が前知識なく誘われるまま秘密のビーチに行ってしまう理由もちゃんとしてる。

青年に成長した息子トレントはアレックス・ウルフ。「ジュマンジ」シリーズのナイーブでゲーム世界に没入しちゃうナードな少年役が印象的。
娘マドックスはトーマサイン・マッケンジー。「ジョジョ・ラビット」で秘密の少女だった人。二人とも体は成長したけど、つい数時間前までそれぞれ6歳と11歳。大きな体で中身が子供の難役を熱演。時折、普通に年相応に見えちゃうのはシナリオの問題なのでノーカン。

舞台となったアナミカ・リゾート。「アナミカ」とはヒンドゥー語で「匿名の/名前のない」って意味だそう。パスポート持って訪れてるから、アメリカ国外の南国のどこか架空のリゾート地なんだろう。実際はドミニカ共和国の浜辺に巨大セットを組んで撮影したそう。自然が相手なので、潮の満ち引きや太陽の変化に悩まされ、挙句台風シーズンで何度も撮影が中断。ただでさえコロナ禍で困難な撮影状況に加えて、自然環境の変化に悩まされて監督曰く「史上イチ過酷な撮影だった」。

原作というか下敷きになったのはフレデリック・ピータースとピエール・オスカル・レヴィによるグラフィックノベル「SandCastle」。直接的には子供が浜辺に作る砂の城だけど、砂上の楼閣っつーのか、理不尽に簡単に崩れて消える人生の儚さの暗喩に思える。

セダンの連れの女性や、医者チャールズのセクシーな妻クリスタル。成長したマドックスやカーラ。迫り来る残酷な現実の一方で、女性たちを艶めかしく描くシーンも印象的。あのビーチの1日に生と死が凝縮されてる。最終的に全部砂となって消えてしまう無常感、転じて生きてる間の行いが試されて見える。(黒幕も結局は砂上の楼閣になってしまうし)

最終的にはトロッコ問題になるけど、やり方ってもんがあるだろう。
ことほど左様に、見てるそばからツッコミたい箇所がそこかしこ。
体だけ大人で心は子供のままなハズの二人が、物語に都合よく大人並みの知識があったり粗も目立つ。ただもう「シャマラン映画ってそういうもの」と思うしかないっちゅーか、今回はちゃんとカタルシスのある着地してくれただけで御の字。しかもよく考えると誰も救われてない気もして、余韻部分に真のスリラーがある気がする。

ヒッチコック好きのシャマランだけあって、ラストのあれはたぶん「裏窓」オマージュ。スクリーンを超えて、観客の人生もまた観察されているようでゾッとした。永遠不変の映画の中からすれば、現実に生ける自分たちの人生なんてあのビーチと大して変わらない。「理不尽な世界で人はどう生きるか」を問いかける。

世界の秘密に気づいて、自分の使命を知る話が多いシャマランが今作だと一転、自分の周囲どうこうじゃなく、自分の選択と行動が自分を決める話。長年「選ばれし者の不遇」を描いてたはずが、長い雌伏の時間を経たら、一周回ってごく普通の人の普通の人生の尊さに帰ってきたようで感慨深い。(自ら「選ばれし者」を演じてたことすらあるのに)


フォントがグニャグニャと変化するOP・ED。宇多丸師匠によればアーロン・ベッカー(?)によるソール・バスオマージュ。自分には不気味で不穏でスタイリッシュなカイル・クーパーオマージュに見えた。

余談)
マーロン・ブランドとジャック・ニコルソンが共演した映画は「ミズーリ・ブレイク」だそう。知らない映画がいっぱいあるもんだ。


54本目
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