浪川リオン

オールドの浪川リオンのネタバレレビュー・内容・結末

オールド(2021年製作の映画)
3.3

このレビューはネタバレを含みます

『精神など肉体の玩具に過ぎない』
~ニーチェ~

これにツッコミを入れるのは野暮だなというのは自分でも分かっていて、それでも思わずにいられないのが「精神年齢が急に上がるように感じられるのがおかしい」という事。あと子供があれだけ成長するならひっきりなしに食事取ってないとおかしいだろうし。
…改めて文字にするとやっぱり野暮だな。

私自身が勝手に思うシャマラン監督の魅力は「不穏な不気味さ」だと思うのだが、今作ではロケーションがリゾート地である為か何となく雰囲気が爽やかであり、あまりそれが受け取れない事。大量のお弁当が用意されてて「子供は食欲旺盛ですから」というセリフがある事なんかもその「不穏で不気味な伏線」になり得るシーンだったのだろうけど、こちとら予告編やポスター見た時点でシチュエーションを理解してしまってるので「子供が大人になるために必要なんだね」って分かってたんで「何々? どういう事…?」とはならず「やっぱりね…」みたいな感じで伏線としては失敗してしまってる感。

ある夫婦が最期を迎えるシーンなんか、ちょっと良いシーンっぽくなってしまっているが、そもそもこの夫婦がこのビーチに来たのは騙されたからであり、ここで添い遂げる事になってしまったのは(間接的にであるとはいえ)れっきとした殺人だよなあ。…みたいな事考えてしまってて素直に感動できなかった。いや、ちょっと目頭が熱くなったけど。
でもこのビーチにさえ来なければ、夫婦二人がこれから経験したはずの様々な事があった上で最期を迎える、あるいは紆余曲折を経て添い遂げる可能性もあったはずで、しかし文字通り矢のように過ぎる時間がそうした『可能性』を与えなかった。そう考えると二人の最期が感動的に描かれているのは「場の雰囲気に流され易い物語の受け取り手(私含む)、または大衆」への皮肉である可能性もある。(考え過ぎかも)

最初に一度書いたけど、これが一番言いたい事なのでまとめに持ってきたが、人の精神が急成長を遂げる事などあるだろうか。
確かに彼はほんの短い時間で人の死やセックス、父親になる事と子を失う悲しみを一気に経験した。だからと言って最後ヘリの中であんな小粋なジョークを宣えるほど人格が成熟する事などあり得るだろうか。

私もこれを読んでいる貴方も、学業や仕事、大切な誰かとの心躍るような時間や、または身を切るような切ない経験、日々の他愛無い会話や見たもの、読んだ物から様々な事を考え少しずつ少しずつ、海の底に砂が積もり重なるように今の人格、性格を形成させていったのだと思う。

そんな我々から見て、あの兄妹の精神の成熟は違和感を覚える(のではないだろうか?)。そう思うともう少し「外見は大人でも中身は子供のまま」のという描写をして欲しかったなと思わずにいられない。
そこについて逆のベクトルから見てみると「何気無い日々こそが何よりも尊いもの」というテーマも受け取れる(監督が意図したものとは言ってない)。
『アバウト・タイム』で受け取ったものをすごい変な角度から急に矢文で読まされたような気分だけど、改めてそんな基本的な事に気付かせてくれてありがとうという気持ち。

パンチラ回数:0
(あの妊娠した子が崖を登るシーン、細かく一時停止しながら見てみるとニップレスのような物をしており、興ざめでした)