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川っぺりムコリッタのChipのネタバレレビュー・内容・結末

川っぺりムコリッタ(2021年製作の映画)
4.5

このレビューはネタバレを含みます

めちゃめちゃ良かった。

まずムコリッタとは?って感じなんだけど、ムコリッタ(牟呼栗多)は仏教の時間の単位のひとつで1/30日=約48分のこと。「刹那」と同様の時間単位で、一瞬を意味する言葉らしい。一瞬一瞬の、ささやかな幸せがこの言葉に表されている。

前科のある山田が北陸の小さな塩辛工場で働きながら、社長に紹介された築50年のアパート「ハイツムコリッタ」で暮らし始める。
隣人の島田は突然訪ねてきたかと思ったら早口で「挨拶は普通引っ越してきた方からくるもんだけどなぁ。そんなことよりお風呂を貸して欲しい」と言ってくるし、
その幼馴染のガンちゃんは挨拶してもフルシカトだし、おばあちゃんの幽霊は出るし、
大家のみなみさんは妊婦を見ると腹を蹴りたくなるとご乱心だし、
少年と一緒に墓石を売るおじさんもなんか宗教の勧誘みたいで怖いし、
登場人物ほぼ全員どこかおかしい。
でも人なんてだいたいどこかはおかしいよなあ。

炊き立てのご飯の匂い、
塩辛のしょっぱさ、新鮮なトマトやきゅうりが本当に美味しそうだった。
「ご飯って、ひとりで食べるより誰かと食べるほうが美味しいのよ」という島田さんのこと、だんだん愛おしくなっていった。
最初うざいとか思ってごめん…

フルシカト住職のガンちゃんが無言でお茶を出してくれたり、酔い潰れた島田をおんぶして帰っていくところ、本当は優しいのずるいな。

ハイツムコリッタに住み始めた頃は誰とも関わらず今にも死んでいきそうな目をしていた山田が、島田が夕飯時に現れなくて違和感を覚えるようになったことに思わず泣きそうだった。
煩わしいこともあるけど、やっぱり人と関わることを諦めたくないなと思った。

すき焼きのシーン、興味ない感じで一度去った山田がお箸とお茶碗を持って爆走してくるの笑う。最高。

生きること、死ぬこと。
炊き立てのご飯。野菜。塩辛。牛乳。
骨。

テーマが重い映画だけど、田舎での生活感や住人たちの空気感が心地よい。
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