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川っぺりムコリッタのsomaddesignのレビュー・感想・評価

川っぺりムコリッタ(2021年製作の映画)
4.0
北陸の小さな町。塩辛工場で働き口を見つけた山田は、社長から紹介された古い平屋アパート「ハイツムコリッタ」で暮らし始める。なるべく人と関わることを避け、ひっそりと暮らそうと思っていた山田。しかし引っ越してすぐ、隣の部屋の住人が「風呂を貸してほしい」と訪ねてきたことから一変する。
「かもめ食堂」「めがね」「彼らが本気で編むときは、」で知られる荻上直子監督が2019年に上梓した長編小説を、自身の脚本・監督で映画化。

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なぜだか二度見てしまった。

荻上直子監督作は「めがね」以来の鑑賞か。
自分の中では「窓辺系映画の巨匠」。なんとなく事態が解決したり、主人公が癒やされて再生されるような作品群の印象。抽象的でぼんやり・フワフワした質感と語り口が特徴。掴みどころがない物語は好き嫌いが分かれそう。


「さかなのこ」に引き続いて音楽:パスカルズ。「アイアムまきもと」に引き続いてヒロイン満島ひかり。なんだか似たような作品ばかり見てる気になってくる。

「ムコリッタ(牟呼栗多)」は仏教の時間の単位のひとつ(1/30日=48分)を表す仏教用語だそう。今作だと黄昏時? 人生が立ち行かなくなってしまった人達が再び動き出すまでのひとときの意味も込められているのかなぁと。 映画用語でいう夜明け直後か日没直前のマジックアワーも含まれているような。


荻上監督作には欠かせないフードスタイリスト:飯島奈美の食べ物の数々。
今作だと白米と塩辛(ときどきスキヤキ)くらいしかフードが出てこないけど、どれもまー美味そうで腹が減る。山田が炊飯器を開けて胸いっぱい炊き立ての湯気を吸う顔だけで、自分の鼻腔にも炊き立ての香りがしてくる。過去作含めて荻上監督作の中で一番美味そうなのが銀シャリっていう。

徐々に充実していく食卓の様子で、山田が再生していく過程や充足が伺えるのがいい。最初は自分のためだけの食事だったのに、いつしか自分以外の誰かを含めた食卓に変わっていく様子もよくて、友達でも家族でもない文字通りの「同じ釜の飯」を食う仲が立ち上がってくる感じ。
気になるのは質素倹約の食卓なのに、ビールだけは発泡酒じゃなくてビール。山田の数少ない喜びとしてのビールか、はたまた飲酒にこだわりがあるんだろか?

今作のメインフードとなる白米と塩辛。調理シーンが作れない代わりに、真剣に米を炊く山田の姿が印象的。なんかこう…一生懸命に生活や人生に向き合おうとして見える(ゆえに、落ち込んで生活が荒れると食事も荒んでる)
塩辛はご飯にのっけるばかりだけど、じゃがバターに乗せたり、パスタにしたりと汎用性高いので是非とも山田には様々な塩辛レシピにチャレンジして欲しい。(オススメは塩辛にごま油垂らして、黒胡椒や刻みネギを散らしたやつ。完全なる肴)


ストーリーから登場人物の佇まいまで、全体的にぼんやりした感触で、ふわふわと地面に足がつかないまま進む映画なので掴みどころが難しい。それでも松山ケンイチを中心に、ムロツヨシ・満島ひかり・吉岡秀隆ら芸達者らが揃ってるだけあってイチイチ味わい深い。
富山県の魅力を伝えるご当地映画の側面もあるので、美しい北陸の自然風景や街並みもまた楽しかった。

「ギター弾きの川辺の住人、元たまの人に似てるなー」と思ってたら、やっぱり元たまの知久寿焼さんだった。主題歌だけじゃなく出演までされていたとは!😲
出演者・スタッフを前にかわっぺりで夕陽を背にメインテーマを弾き語るメイキング映像が素晴らしい。ソフト化の際には特典映像で絶対入れるべき。
https://www.youtube.com/watch?v=t1niBfAUTks
他にもメイキング動画がいっぱい上がっててオススメ。映画を作る喜びが漏れ出てくるようで、本編より多幸感あって好きかもしれない。


余談)
途中、島田が熱心にキュウリを切っているシーンがあるけど、あれは一体何を作っていたんだろう? 味噌キューリ用には半分に切っただけのやつだったし、スティック野菜には短すぎ。トマトと炒めると美味しかったりするんだろうか?
島田が自身の過去を漏らしてしまいそうになって、うっかり必要以上に手元を動かしすぎて(切りすぎて)しまったと妄想すると、島田の心の内のざわめきを表現した名シーンに思えてきた。


64・67本目
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