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川っぺりムコリッタの都部のレビュー・感想・評価

川っぺりムコリッタ(2021年製作の映画)
5.0
2022年公開映画:邦画の中では本作が一番好きな映画です。
綺麗な生き方が出来ない人間達が、人間としての良し悪しを惜しみなく晒しながら、緩慢な時間が流れる幻想的な現実で向き合うのは『死』という人生の命題。
この切り口の時点でだいぶ好き──負け犬達による人生賛歌物に弱いので──なんですけど、どこか幻想的な現実世界とは対象的な静謐に語られる面々の心の傷は精緻に克明に描かれ、それを優しさを帯びた目線と共に受容させていくプロットが何よりも愛おしい。

独特なユーモアセンスを感じる掛け合いで長閑さを演出しながら死生観を語る丹寧な筆致も好ましく、語り部である山田と隣人の島田を演じる松山ケンイチとムロツヨシが織り成す 距離感が絶妙な友人関係が本作の心に沁みるような良さを引き出すことに成功しており、惨めでも汚らしくともこの人生を生きていくという決意を感じさせる人物像の味わい深さを捉えた演技の連続は見事です。加えて、彼等が持つ人としての危うさという点もしっかりと演じきっており、その二面性が作品全体の雰囲気と同調して、より強固な物にしていて……これは、すごいですよ……。

綺麗でも汚くても辿り着くは同じ命という核を正面から描く力強さがあるからこそただ緩慢な作品になっていないというのもありますし、命題の重さと空気の軽さのバランス感覚も絶妙なんですよねこれが。
また典型的な邦画の良作的な作品かと思えば、劇場のスクリーンを前提に置いた印象的なカット割りの数々と技巧的な点も見受けられて、なだらかな作品であるにも関わらず目を見張るような画の多いこと。

映画の良し悪しを決める基準の一つとして、『このシーンの為にまた見たい』と思う そんなシーンをどれだけ一つの映画に生み出せるかという点にあると思うのですが、こんなにも静かな映画であるのに両手で足りないくらいそういうシーンがあるというだけでもう感動的な出来だと言わずにはいられません。

自分の父の訃報を受けた山田の作品を通した死との向き合い方も情緒的で、120分という上映尺の中で一切の無駄がない感情線の引き方も……マジで良い。ラストシーンも最高ぉ〜〜。度々 挿入される食事のシーンも非常に有機的に生を意識させるそれで大変良かったです。
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