そーる

林檎とポラロイドのそーるのネタバレレビュー・内容・結末

林檎とポラロイド(2020年製作の映画)
3.9

このレビューはネタバレを含みます

アマプラで鑑賞。

なんとも余韻の残る作品でした。
また邦題もいいです。

突如記憶喪失になる病気が蔓延する世界で、
記憶を失った主人公。

病院から与えられる課題をこなしてポラロイドに収める。
その"新しい生活"から見える刹那を描くのが上手かったです。

彼は妻を失った哀しみに耐えきれず、
記憶を失ったという演技をしていた。
(近所の犬の名前を覚えていたことや、妻は死んだというセリフ、前の家の番地を言えたことで読み取れます)

何故ならば、
全てを精算し新しい生活をするため。
この家にいては妻の匂いや生活が頭から離れず哀しみが消えないから。

彼が好きだったりんごは妻との生活(=過去)のメタファー。
ポラロイドは新たな生活(=現在未来)のメタファーであることは間違いありません。

りんごは、果物屋の店主の
記憶低下を防止するらしいのに売れないんだよというセリフからも想像できます。

少し飛躍すると、
この世界は過去を精算したい人で溢れているのかもしれないです。
つらい過去、忘れたい生活。
そこから逃れるようにポラロイドを握り締め今を刻んで、今を新しい過去にして塗り替えていく。
主人公はりんごを食べることもやめます。

しかし主人公は、余命わずかの老人との対話で気付きます。
そのつらい過去が、忘れたい生活が自分の人生においてかけがえのないものであった事を。

一度は食べるのをやめたりんごを、
元の家に帰って食べるシーンはとても素晴らしかったですよね。
りんごは過去のメタファーなので、
彼は過去を乗り越えて今を生きる道を選んだ。

医者のセリフにあった、
「この病気は発症したら治ることはない」という言葉。

これも意訳ですが、
過去を忘れたい人と
過去を乗り越えて今を生きる人で溢れているから
治る人はいないのではないでしょうか。

思い出す=治ること

だとすると、そう読み取れてしまいます。

90分という短さの中に、このテーマと物語を詰め込んだ作品に脱帽です。
そーる

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