るるびっち

皮膚を売った男のるるびっちのレビュー・感想・評価

皮膚を売った男(2020年製作の映画)
3.8
なんとなく主人公が好きになれない。
人知れぬ恋なのに人前で浮かれ、革命だと騒いで捕まり、恋人と引き離される。
イケメンでもないし、老けたアホ男のどこを彼女は好きになったのだろう?
大して反省もなくその癖、母親らしき女性やライバルにビビって彼女を奪い返すこともできない弱虫。中々のクソ野郎である。

そいつが芸術家の口車に乗せられ、背中にビザの刺青を入れてアートとして生きる。
亡命中のため人間としては彼女の側に行けないが、アート作品としてならどこにでも行ける。但し展示物として。
背中のビザの刺青は、その矛盾を表した皮肉。

芸術作品がただのアートではなく、社会性を含んだ「考えるアート」「コンセプチュアル・アート」として創られるようになったのはこの百年間だろう。
マルセル・デュシャンを代表する前衛芸術運動からの流れだと思う。
だったらデュシャンの作品『泉』のように便器にしても良かった。
人間便器として飾られたら良い。
実用アートとして、多くの男女に腰掛けてもらえば面白い。
彼女も腰掛け、現在の彼女の夫にも腰掛けられる。
それくらいしないと、自分のおバカさを反省しないだろう。クソ野郎なんだから(臭いシャレ)。
でもそれでは『家畜人ヤプー』みたいな変態作品になってしまう。

本作は、芸術とエンタメのバランスをとっている作品。
人間の尊厳とは何か。
人間としては国境をまたげないのに、作品としてなら可能という矛盾。
アートと人権の線引き問題など。
数々の社会芸術的問題を含んだ題材だ。しかしエンタメに振っている。
芸術的観点よりも、エンタメへの配慮が大きい。
結局は、恋人を求めて罠に嵌った男がそこから脱出するという、一種の脱出物のスタイルになっている。
だから最後の脱出法が爽快でもあるのだが、深みがなくなった。
芸術と人権の関係を深く洞察するより、脱出系エンタメに堕ちてしまった感がある。

むしろ限りある命を失った代わりに、展示物として永遠の命を得て終生飾られる。
その前には、いつも独りの女性が佇んでいる・・・
という終わり方の方が、余韻があったのではないか?
まあ、そこは好みの問題なので。
ちなみに私なら、皮を剥がれてなめされて、今では元恋人の体を温めるレザージャケットになりました!
っていう終わり方が一番好き❤️
ハッピーエンドでしょ??
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