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映画大好きポンポさんのsomaddesignのレビュー・感想・評価

映画大好きポンポさん(2021年製作の映画)
5.0
夢と狂気の90分

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敏腕プロデューサー・ポンポさんの下、製作アシスタントをしているジーン。いつか映画監督になる日を夢見つつも、ポンポさんに振り回される毎日だった。ある日、ポンポさんに新作映画の15秒予告編の制作を任され、映画づくりに没頭する楽しさを知るのだった。 ジーンはポンポさんから次に制作する映画『MEISTER』の脚本を渡される。伝説の俳優の復帰作にして、頭がしびれるほど興奮する内容。大ヒットを確信するが……なんと、監督に指名されたのは予告編が評価されたジーンだった!

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映画の評判があまりに高いので、映画を見に行く暇ができるまで原作を予習してみた。結果、原作からもぉバカみたいに面白い。ドハマりした勢いのまま仕事ほっぽり出して映画館に走った。

映画作りの映画は数あれど、「編集」にフォーカスした映画は珍しい。具体例を見せて編集の面白さ・奥深さが分かる(北野武も「映画作りで一番楽しいのは編集」って言ってたし)。それだけにジーン君の試行錯誤が今作のキモ。

チームワーク芸術としての映画ってより、クリエーターの孤独に焦点を絞った後半部。原作だとサラッと描かれてた部分だけど、編集次第で映画の味わいがガラッと変わる面白味を映画内でやっちゃうチャレンジ精神。具体例を見せてくれるのもありがたい。

誰かに向けた映画作りのはずが、次第に自分自身と向き合い、自分が何者であるか・何者でありたいかを自問する。七転八倒、悪戦苦闘シーンの連続で見ていて辛い。妥協できるポイントはいくらもあるし、現実と折り合いつけて上手な着地点にソフトランディングするのも仕事としては立派なことだろう。だがあえて自分のやりたい事を突き詰め、自分自身と向き合い続ける姿が痛々しい。

聞けば平尾隆之監督自身、アニメの演出・監督になるまで時間がかかったそうで、ジーン君の苦闘に監督自身が透けて見えるよう。
原作のシンプルな描線を生かしつつ、光や時間の演出が特徴的。キラキラと光る水たまりの水滴や、高原の自然光から都会の照り返しまで、様々な方向の光源を駆使してるのが分かる。
場面転換のトランジションもワイパーや飛行機が画面を割るのに合わせて切り替わったり、今作自体がジーン君のこだわり同様、かなり凝った編集の賜物なのも熱かった。

原作の創作者の視点に出資する人・映画を見る人の視点が加わって、より多面的に『映画』の素晴らしさが感じられた。どうしても作り手側の話になりがちなトコを、見てくれる人を含めた完成形を見た気分。作るばかりが映画愛じゃない。

ジーン役に清水尋也、ナタリー役に大谷凜香。監督デビューと女優デビュー役にそれぞれ声優初挑戦の二人をキャスティング。特にジーン役はセリフ量も多いし、毀誉褒貶・落ち込んだりアガったり忙しく難しいキャラクターだと思うけど、初々しくアニメ的でない(記号化されていない)演技が印象的だった。

ポンポさんの神性に救われる。小原好美の幼いようで百戦錬磨の強さだったり、明るく前向きに関係者の背中を押していく声の演出が素晴らしい。
うら若き女性が敏腕プロデューサーとして活躍できるフィクションラインを象徴するキャラだし、なんのかんの言いながらエキスマキナな解決をしちゃうのも素晴らしい。「映像研」の金森氏同様プロデューサーがいかに重要な仕事かって話でもある。なんなら、いかに優秀なクリエイターであろうとも、全体の進行管理や予算管理、折衝がマーケティングetc…作品の出来と成功はプロデューサーの手腕無くして語れない。


難癖をつけるなら「幸福は創造の敵」って前提に違和感。個人的には「幸も不幸も創造に昇華してこそクリエイター」だと思う。ネガティブな気持ちは瞬発力があって、創造することで発散しやすい部分はあるけど、毎日の仕事とするには続かない。不幸を是とすることで救われる人がいるのも分かるけど、学生時代からリア充なアーティストもいっぱいいるし。喜びが原動力になることもあれば、淡々と積み上げる強さもあるはず。毎日半紙を摘むように日々の小さな研鑽が大きな力になることを思えば、瞬発力より持続する力のが大事に思えちゃって同意しかねちゃった。(そういう論旨じゃないのも自覚してるけど)

35本目
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