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アメリカの友人のnoteのネタバレレビュー・内容・結末

アメリカの友人(1977年製作の映画)
4.0

このレビューはネタバレを含みます

ヨーロッパで贋作を売りさばく米国人トム・リプリーは、ある日オークションに絵画を出品したところ、ハンブルグの額縁職人ヨナタンに贋作だと見抜かれてしまう。その後ヨナタンに紹介されたリプリーは、彼が白血病の治療に莫大な金を必要としていることを知る…。

パトリシア・ハイスミス原作による「トム・リプリー」シリーズの一作の映画化。
死を間際にした男ヨナタンと、死に取り憑かれた男トムとの奇妙な絆を描いたクライムサスペンスの秀作。
移動する列車や自動車、美しい風景といった旅の浮遊感がロードムービーを得意とする監督、ヴィム・ヴェンダースらしさを感じさせる。

トムの元に昔なじみの殺し屋ミノが訪ね、パリでマフィアを殺すため、身代わりとなる素人を探していると告げる。
トムはミノにヨナタンを仲介。
多額の前払い金を受け取ったヨナタンは、ターゲットの男を射殺する。
それは職人らしい責任感からだ。

成功を聞きつけたミノは、ヨナタンに再び殺しの依頼をする。
しかし、ヨナタンと懇意になっていたトムは、何とかそれを阻止しようと、殺しの現場に乗り込んでくる。

とにかく、トムとヨナタンの奇妙な友情の描き方が切ない。
贋作の絵を売りとばすトムが差し出した握手を、ヨナタンが拒否したことから2人のやり取りが始まる。
トムは贋作を見破ったヨナタンを「よくぞ見破った」と薄ら笑いで認める。
まるで嘘で塗り固めた人生に、ようやく「それは嘘」だと真実を指摘する者が現れたのを喜ぶかのように。
おそらくヨナタンが長くは生きられないという事実が無ければ、トムは彼に近付かなかっただろう。
白血病治療で苦しむより、家族に遺せるだけの前払い金を得て、殺人に失敗して死んだ方が、彼のためと思ったに違いない。

ヨナタンはトムにとって正直な聖人であり、余命幾許もない彼の人生がさらに汚されるのが嫌だったとしか思えない。
だからこそ、第2の殺人の現場に現れ、ヨナタンに変わって殺人を行う。
「こんな事は俺のするべき仕事だ」と言わんばかりに。

トムはカセットテープに「私は誰、ここはどこ?」といった虚無的な自問を繰り返し吹き込んでいるような男。
嘘で他人を欺き、死に追いやるような男であり、自分の存在を生きる価値のない罪人と認めている「死に取り憑かれた男」だ。
この一瞬を懸命に生きるしかないヨナタンこそが、自身の心の隙間を埋めてくれる存在だと片想いしているのだ。

ヨナタンはトムの邸宅に匿われ、マフィアの襲撃に備える。
その夜、2人は協力して侵入してきたマフィアの手下とボスも殺してしまう。
生き残ってしまったヨナタンは、もはやトム側の人間になってしまったかに見えたが、

トムは人気のない浜辺で死体を積んだ救急車にガソリンをかけて火を放ち、証拠隠滅を図ろうとした時、ヨナタンは迎えに来た妻・マリアンヌの車を走らせ、トムを置き去りにする。

「俺はお前と同じではない」というヨナタンの抵抗である。
マリアンヌと共に家路を急ぐが、途中でビートルは車線を外れて路肩に乗り上げる。

マリアンヌが慌てて車を急停車させた時、ヨナタンは既に息を引き取っていた。
ヨナタンの死を悟ったトムは、彼を犯罪の世界に染めたことを後悔する表情で遠くから見つめる…。

本作は、死と犯罪を媒介に2人の男が惹かれ合うが、やはり互いに別の世界の住人であることを旅路の果てに再認識するドラマだ。

殺人以外にショッキングで刺激的な演出はなく、物語は淡々と進むため、人によって好みは分かれるだろう。

本作でのヴェンダース監督の演出はとても繊細だ。
その刺激を補うのが、ロビー・ミュラーのカメラによる独特の色彩。
ヨナタンの息子ダニエルのレインコートの黄色やマリアンヌのビートルのオレンジなどは、やたら生々しく、ヨナタンの求めるイキイキとした生の象徴であるのと対照的に、血塗られたような燻んだ赤一色のトムの部屋や街角の風景の明るさを廃した深い青は、犯罪や死を匂わせる。

同じトム・リプリーの話でも「太陽がいっぱい」のアラン・ドロンとデニス・ホッパーでは、同じキャラクターでありながら全くの別人。
デニス・ホッパーがやさぐれた中年でありながら、時折、直情的でピュアな感性を覗かせる。
まさに屈折した現代を象徴する「アメリカの友人」だ。
ヨーロッパ人にとってのアメリカ人とは、彼のような存在なのだろう。
他に適役なアメリカ人役者が思いつかない。
ニコラス・レイ、サミュエル・フラーという巨匠と呼ばれるヴェンダース監督の敬愛する監督達を出演させるあたり、アメリカ映画そのものへのオマージュをも感じさせる。

個人的に本作は本作はアメリカのフィルムノワールへのオマージュだと感じている。
ファム・ファタールはトム・リプリーである。
だが「ブロマンス」映画とは一線を画す、トムのヨナタンへの「片想い」の物語でもある。
とても渋い、大人の男向けのクライム・サスペンスだ。
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