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マッドマックス:フュリオサのichirotakedaのネタバレレビュー・内容・結末

4.0

このレビューはネタバレを含みます

昨今は人気シリーズの前日譚(たん)がよく作られている。

ただ、これがなかなか難しい。結末が既に判明しているため、作り手は「そこにどう繋(つな)げるか」を段取り的に追いがちだからだ。観(み)る側も、事情や設定の裏側を知ることで、興醒(きょうざ)めしてしまうこともある。

本作は『マッドマックス 怒りのデス・ロード』の前日譚だが、心配ご無用だ。舞台は核戦争で文明が荒廃し、暴力が支配する近未来。『〜デス・ロード』でシャーリーズ・セロンの演じた戦士・フュリオサが、戦いに身を投じる過程が、母親を無惨(むざん)に殺された少女時代に端を発する復讐の物語を軸に描かれている。

そしてジョージ・ミラー監督は、凡百の前日譚映画と格の違いを見せつける。

今年で79歳とは思えないパワフルな演出に冒頭からエンディングまで引き込まれっ放し。これが前日譚であることを早々に忘れて、作品世界に没入できる。

砂丘の広大な空間や高低差を縦横無尽に活(い)かしたカーアクション。それを切り取る、ケレン味たっぷりの最高に燃えるショットの数々。とにかく圧巻の映像だ。

音響も素晴らしい。爆音で押しまくるだけではない。時おり静かになる瞬間も訪れる。爆音の時に張り詰めていた観客の呼吸は、ここで一気に吐き出される。

音のメリハリで、観客の呼吸をもコントロールしているのだ。息をも吐かせぬ――ではない。どこで吐き、どこで吸うか。観客を思うままに操りながら、緊迫感の緩急を紡ぎあげる。

若きフュリオサを演じるアニャ・テイラー=ジョイも見事だ。シャーリーズ・セロンに比べると線が細い彼女が起用された理由は、登場してすぐ理解できた。

それは目だ。大きくて澄んだ力強い瞳が、暗黒の世界とのコントラストでひときわ輝く。その眩(まぶし)さは、決して折れることのない精神の象徴として、絶望の荒野に希望を灯(とも)すかのよう。