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『Paranoiac（原題）』に投稿された感想・評価

horahukiの感想・評価

2022/01/12 19:58

3.8

本当に狂っているのは誰か？

ハマーの名作。8年前に死んだ兄が帰ってきた！コイツは本物？偽物？と家族の中でも意見が真っ二つ。兄LOVEだった妹は本物が帰って来たやったーー❤️と騒ぎ、叔母さまともう1人の兄は死んだ両親の遺産目当ての偽物だ…と絶対に認めない。果たして彼は本物なのか？なぜ今頃帰って来たのか…？

ハマーやアミカスでホラー映画を連発した名匠フレディフランシス製サイコホラー。本作、『恐怖の牝獣』『Phychopath』と、フランシスが『サイコ』フォロワーを連発していた時期の作品で、脚本は『吸血鬼ドラキュラ』等々で有名なハマーの重鎮ジミーサングスターの強力布陣。ハマー自体も『恐怖』を筆頭にサイコホラーを連発していて、本作はハマーサイコホラーシリーズの3作目。

シンプルな『サイコ』と比較して、莫大な遺産を残して亡くなった両親の遺産相続をめぐる家族内部でのドロドロとした争いを根底に置き、更にはその顧問弁護士親子、専属看護師にまで視野を広げているために関係性がかなり複雑。最初は『回転』のような見せ方（フランシスは『回転』の撮影監督）で妹が死んだ兄を幻視しているかのように展開し、『猫とカナリヤ』的な相続妨害のために妹が狂ってると思わせる系からの、ガチで兄が登場→本物？偽物？展開を経て、本当に狂っているのは…な落とし所に持ってくる二転三転具合が楽しい。

更には後の『アリススウィートアリス』を思わせるキモキモビジュアルの小柄な仮面殺人鬼さんまで登場するモリモリ贅沢セット！この付近だけ非常にジャーロ的な演出を使用しており、良い意味で映画全体の上品な空気感から浮いているために異様さが際立っている。ただ個人的には妹の幻視を起点として現実と幻想の境界を取り払う展開のが好みなので『恐怖の牝獣』の方が好き。

ただ、フランシスだけあってやはり映像に力がある！本作は崖を重要な舞台として設定していて、飛び降りようとしてる妹を見上げた上に点のように人物が写っている時の距離感が暗に関係性を語ってしまっていて、この落下から救うを2度作中で描くことでその心的な距離の縮まりを的確に描いている。その禁忌ゆえの感情を秘匿し埋没させるようなロングショットもすんごい綺麗！

そして崖から派生して水も同様に印象的。崖から落下の際の大きな波紋→小石の小さな波紋→穏やかな水面と都度都度変遷させているのがわかる。めちゃくちゃ兄LOVEな妹も本当に兄LOVEだったのかを疑問に思わせる瞬間が多々あって、そのあたりに本物・偽物とは何か…的な発想を本物故の禁忌（カットされたっぽいけど…）と対比させているのも手堅いと思う。実態に形式を追いつかせるというか、埃まみれな規範的なモノに縛られることにしがみついた者と、死の世界にその外側としての解放を見出した者とがしっかりおさまるべきところにおさまる脚本も綺麗！やっぱりこのコンビは間違いない！！