SANKOU

声もなくのSANKOUのネタバレレビュー・内容・結末

声もなく(2020年製作の映画)
4.4

このレビューはネタバレを含みます

足の不自由なチャンボクと口のきけないテインは、表向きは卵の移動販売をしながら、犯罪組織からの下請けである死体処理の仕事をしながら生計を立てていた。
ある日二人は組織のボスから人を預かってくれと頼まれる。
指定された部屋には一人の少女がいた。
少女は身代金目当てに誘拐されたのだが、どうやら親が身代金を出すのを渋っているようだ。
チャンボクはチョヒと名乗るその少女の世話をテインに押し付ける。
親が身代金を払うまでの一時的な預かりだと思っていた二人だが、組織のボスがヘマをやらかしたらしく始末されてしまったので、チョヒの扱いをどうすれば良いか分からなくなってしまう。
彼らに残された選択は身代金を受け取ってチョヒを親元に返すか、人身売買を専門とする犯罪組織に引き渡すかのどちらかだった。
どこまで行っても底が見えない沼に沈んでいく暗さがありながら、色彩がとても鮮やかでまるでおとぎ話のような印象を受ける。
この光と闇のコントラストが秀逸で、残酷な描写にこそユーモアが溢れるクレイジーな世界観はなかなか日本映画ではお目にかかれない。
これも疑似家族を描いた作品だともいえる。
テインにはムンジュというまだ幼い妹がいるのだが、彼女はいつしかチョヒを本当の姉のように慕うようになる。
家に帰るチャンスを窺いながらも、テインとムンジュとの生活に居心地の良さを感じ始めてもいるチョヒの複雑な心境が画面を通して伝わってきた。
チャンボクを含めた四人がポラロイドカメラで記念写真を撮る場面は、本当の家族のような温かさを感じさせる。
またチャンボクがチョヒの親宛に送るために写真を撮るのだが、思わず笑顔になってしまうチョヒの姿が印象的だった。
この映画の面白さは、普通なら成立しない関係の中で生まれるねじれた絆だろう。
一度はチョヒを犯罪組織に引き渡しながらも、必死で彼女を奪い返そうとするテイン。
またテインの元から逃げ出しながらも、自分を探し回る彼の姿に思わずホッとしてしまうチョヒ。
何なら彼女は捜索に現れた婦人警官を土の下に埋めるのを積極的に手伝ってもいる。
チャンボクとテインの出会いも詳細には語られないが、二人もまた切っても切れない絆で繋がっているようだ。
それは社会の底辺で生きる者同士の絆なのかもしれない。
テインはチョヒを小学校に送り届けるのだが、最終的にチョヒはテインを誘拐犯だと教師に伝える。
この残酷な結末をどう受け止めるべきか考えさせられた
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