安堵霊タラコフスキー

ドライブ・マイ・カーの安堵霊タラコフスキーのレビュー・感想・評価

ドライブ・マイ・カー(2021年製作の映画)
5.0
寝ても覚めてもだとか脚本に関わったスパイの妻だとかを鑑賞したときも相性悪いなと感じていた濱口竜介という監督の作品で、まさかここまで感嘆して軽く放心状態になるなんて思わなかった。

というか今まで所々で良いなと思えた映像面のキレ(例えばPASSIONの終盤だったりハッピーアワーのパッケージにもなったゴンドラのシーンだったり)を濃縮して、逆に以前の映画で良い印象を抱けなかった脚本面での若干ダサいノリがまるで感じられなかったおかげで、3時間のそこそこの長尺でもまるで睡魔も退屈感も覚えることなく見入ってしまっていた。(尿意を我慢できずに途中席を立たざるを得なかったところだけが悔やまれる)

テーマ性としても多国籍の演劇等の設定が多数上手く活きて魂の対話というものに昇華されきっていた様子が実に緻密で白眉と言わざるを得ないけれども、そのテーマとして昇華された諸要素が台詞を吹き込んだテープなり手話なり本当に多数に及ぶのでどれだけ掘り下げてもキリが無いレベルなのが困るくらい。

パラサイトや七人の侍のようにこの作品以上に凄くて面白い映画ってのはあるだろうけど、これ程までに文学的で沁みる質感を持ちながら完成度が高いものってのが中々思いつかないって具合に他の映画とは一線を画する代物で、思い返してみてもやはり打ち震えてしまう。

スパイク・リーらカンヌの審査員は中々悪くない受賞結果にしたものだと発表当時は思ったが、それを翻して異議を申し立てたい、果たしてこの傑出した作品以上にパルムドールとして相応しい映画が他にあったのかと。