シュウ

ドライブ・マイ・カーのシュウのレビュー・感想・評価

ドライブ・マイ・カー(2021年製作の映画)
4.8
遅ればせながらやっと視聴

長尺だが無駄なシーンが全くなく
ずっと上質な演劇を見ているようだった
セリフの棒読み演出も解説を読んで大いに納得

鑑賞後に心に残ったことは2つ

①「どんな真実よりも
本当に恐ろしいのはそれを知らないでいることだ」
と作中のセリフであったが、鑑賞後に
「最も恐ろしいのは真実を知ったのに知らないフリをしてやり過ごそうとし、
自分と、他者と向き合わないことだ」と痛感した

向き合うのは面倒だしパワーがいるし、
何より今の関係が崩れてしまうのではないかという恐ろしさがある
だから、今、なんとなく表面的にうまくいっている状況を取り繕おうとする

自分も過去の人との関わりの中で思い当たる経験があるし、
またその面倒くささ、恐れを乗り越えて自分に関わってくれた妻への感謝が湧き上がってきた

②人間は複雑であり多面性を持った生き物である
しかし人は「この人にはこうあって欲しい」という勝手に作り上げた理想像を崩したくないので、
自分が理解できない(したくない)部分を「自分には理解できない闇がある」という言葉でごまかし、
他者と、そして自分と向き合わない巧妙な言い訳にする

①も②も結局は「自分の作り上げた都合の良い世界の中で生きたい」という欲求であり
そのために面倒くさいことからは目を背け自分の処理できる範囲の中で他者と関わる

その象徴が家福だが、根底には娘を失った悲しみが根付いているのだろう

それを揺るがしてくる高槻
「バードマン 」のノートン演じるマイクを彷彿とさせるトリックスターぶりだった
彼の存在のおかげで(せいで)家福は自分と向き合うこととなり
他者の支えも借りながらやっと自分の本音と向き合うことができる

劇中に「チェーホフは恐ろしい。彼のテキストを口にすると自分自身が引きずり出される」とあったが、
この映画も見ている人の心の底を引きずり出す力を持った素晴らしい作品だった
シュウ

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