みや

ドライブ・マイ・カーのみやのレビュー・感想・評価

ドライブ・マイ・カー(2021年製作の映画)
4.5
元俳優で演出家の家福悠介は二年前に妻を急病で亡くし、23歳の寡黙な専属ドライバーのみさきは5年前に災害で母親を亡くして、2人はそれぞれに大切な人を失った絶望と後悔を抱えながら生きていたー

娘を四歳の時に亡くしてから悠介の妻の音は、性行為を行う事により頭に浮かび上がる言葉を紡ぎ出しそれを物語にする事で、辛うじて生きていられた様に感じる。その性行為の相手が例え悠介でなくてもー
そうしなければ音は生きて行けなかった。

性行為の後で奇妙な物語を語る精神的に危うい音を、悠介はそれでも愛していた。例え妻が自分以外の相手と性行為をしていたとしてもー
自分が死んでしまうその日に音は、話があると祐介に伝えるのだが、祐介は別れ話を切り出されそうで怖くて早く家に帰る事が出来なかった。もし早く帰っていれば脳溢血で倒れた音を助ける事が出来たのかもしれないのにー

みさきの母は精神的に不安定で二重人格のような状態になっていたのだけれど、みさきはその事から目を背けていて、土砂崩れにあって生き埋めになった母を助けることをしなかった。あの時誰かを早く呼んでいれば母は死なずに済んだのかもしれないのにー

悠介もみさきも向き合わなくてはならない事から逃げていた。逃げて目を背けて、そしてひとりぼっちになってしまったのだ。

演出家の祐介は俳優たちに、本読みの時に感情を出さずに淡々とセリフを喋る様に指示する。それはまるで祐介が車の中で常に聴いている音が読む台本の様に、無機質で違和感があった。けれどそうする事によって感情を出すことよりも、感情を感じ取る事が重要なのだと思い知らされる。もっと音の感情を感じとる事から目を背けなければ、二人は今でも幸せなままでいられたのかもしれないのだから。

今、絶望と後悔の呪縛から解き放たれた二人。
悠介の側に愛車のサーブ、犬、そしてみさきが寄り添って居てくれる事を願わずにはいられなかった。
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