【僕は正しく傷つくべきだった。正しく傷けるべきだった。】 [ATB No.1]
“村上春樹の極点。濱口竜介の極点。”
“セックスは子作りじゃない。唯一の絆であり、脚本。”
“和解と赦し、呪縛と喪失、ドライブと演劇、幸せと脚本。”
“我々の喪失は、1つだ。語り合い、新たな道に行こう。”
“慈悲を持つべきなのは、確かだが。正しく持つべき。そして、正しく知るべき。”
再視聴。どちゃクソやばやば激おもろ映画だ。
「タクシードライバー」を2回目の視聴で、ホップステップで超えてきた。「ドライブマイカー」が1番好きな映画になった。言葉にならない感情でいっぱいになる。まだ僕は、高校生1年の青二才だ。だから、上手く伝えれないけれど、本当にいい作品だ、前向きになるというか、今まであってきた悪の出来事が浄化されるような、そして、許してもらえているような、そんな感じがする。サントラもとてつもなく好き、何があろうと、毎日聞いているし、読書する時は欠かせない。
濱口竜介の巧みの会話は、これが1番凄いと思う。3時間ただただずっと、会話劇だ、なのにたまらなく面白い、メタファーのように感じるセリフもある。本当に距離を感じさせない。邦画の集大成であり、濱口竜介の集大成。村上春樹の文学をそのまんま映画にしているような感じだ。現在村上春樹を読み漁っており、より「ドライブマイカー」がどれ程素晴らしい作品か分かる。なんかおすすめあったら教えてください。
あらすじ
舞台俳優であり演出家の家福は、愛する妻の音と満ち足りた日々を送っていた。しかし、音は秘密を残して急な病気でこの世からいなくなってしまう。2年後、広島での演劇祭に愛車で向かった家福は、ある過去を抱える寡黙な専属ドライバーのみさきと出会う。悲しみと”打ち明けられることのなかった秘密”に苛まれてきた家福は、みさきと過ごすなかであることに気づかされていく….
高槻やみつき…皆が家福を叱っているように見える。
“正しく傷つくべきだったんだ。”このセリフは、子は死に、妻は不倫をし、突然死に、家福はその喪失から逃げていたということを、示唆する。そして、同じ喪失を抱えていたドライバーのみさきと共に、押し殺していた感情が爆発する。そのおかげで、家福は正しく傷つき、新たな分岐点が出来上がる。家福がワーニャ役になる事は、偶然じゃなく、運命(必然)のように思える。
”皆が叱っているようだ。”
”音を叱っているようだ。”
”家福自身の自虐。”
” 音からの説教。”
最後の「ワーニャ伯父さん」は「ドライブマイカー」その物だと、思う。
家福が、淡々と生き、丁寧な人間なんだろうな。だからこそ、「サーブ900」という古い車を、乗りこなす。娘や音など、愛していた人と共に過ごした、思い出の品だから、みさきに運転させたくなかったのかもしれないし、ただただ戯曲を録音したカセットテープでの練習方法を、見られたくなかったのかもしれない。音は何故か、狂気を感じる。その全ての言動に、なんの感情も無いように思える。みさきのキャラクターもすごくいい、終盤の本音を明かすシーンまでは、ミステリアスなキャラで何を考えているか、分からないようなキャラクターだった。だが、ラストでは、家福と同じように、正しく傷つき、元のみさきになったように、思える。ラストのあのシーンでの、みさきが今まで見せなかった、笑顔はすごく良い、気持ちが晴れたような気がした。演劇をするシーンやワークショップシーンは、全てがメタファーに感じるし、本心に聞こえる。にしても、岡田将生の演技がいい、悪に満ちている。家福は高槻を憎んでいたんだろうだが、演劇練習中も、その憎悪を押し殺し我慢した。対極の存在なんだろう、家福は目の前に仇が居ても、感情を押し殺し、我慢出来る。高槻は写真を撮られたと勘違いしただけで、すぐに手を出す、我慢が出来ない。そういう、対比をするから、より家福が慈悲深い人間であり、寛大な心のある男に見える。だが1番分かっていないのは家福だったんだ。でも愛していた、誰よりも愛していた。
みさきの頬の傷は悪意の印だ。それは家福もある。実際に傷は無いが、悪意はあった。「君は母を殺し、僕は妻を殺した。」
ラストシーンは、圧巻の一言。韓国人夫婦の犬もいるし、家福の車を乗ってるし、結構戸惑うシーンだ。韓国人夫婦が帰国してそれの付き添いで来たとか、悠介とくっ付いたとか、渡利の母が韓国人だったとかそんな脈略に沿ってるラストでは無いと思う。言わば、”象徴的”なシーンだと思う。みさきや家福が前に進んで、人生を再出発する。というメタファーだと思う。そういう、見方の方が、濱口竜介らしいし、村上春樹らしい。エンドロールの入り方はたまらなく好き。「DRIVE MY CAR」というタイトルが出て終わる、なんだろうな邦画らしい、めちゃくちゃ日本映画らしい。こんな終わり方は、ハリウッドは出来ないだろう。
他者との会話はいくつかの種がある。手話、カセットテープ、セックス...語り合おうじゃないか。何かが起きるんだ。他者を分かり合い、通し合うのは、会話のみ。
日本映画史よありがとう。濱口竜介監督ありがとう。村上春樹先生ありがとう。ワーニャ伯父さんありがとう。
計3回視聴