MasaichiYaguchi

サン・ラーのスペース・イズ・ザ・プレイスのMasaichiYaguchiのレビュー・感想・評価

3.4
自称土星生まれで、フリージャズの枠に収まらない作品を多く発表した作曲家サン・ラーが脚本、音楽、主演を務めた本作はジャンル的にはSFになると思うが、彼の楽曲同様にそれからもはみ出していると思う。
1969年頃に地球から姿を消していた大宇宙議会・銀河間領域の大使サン・ラーは、音楽を燃料に大宇宙を航行し、遂に理想郷とも言うべき惑星を発見する。
彼はアメリカにいる黒人のブラザーをジャズのソウル・パワーで理想郷へ同位体瞬間移動させるという移送計画を立てるが、NASAをはじめとしてそれを妨げようとする者たちが現れる。
本作は、1960年代後半から70年代初頭にかけてカリフォルニア大学バークレー校で「宇宙の黒人」という講義をしているサン・ラーの存在を、アヴァンギャルド・アートのプロデューサー・ジム・ニューマンが目に留めて実現した。
それにしても大学で「宇宙の黒人」という講義があるというのも凄いが、自称土星人をメインにこのようなアヴァンギャルドな映画を製作してしまうのも“That's incredible!”だと思う。
しかし1974年に製作されて47年も経ってから初公開というのも“That's incredible!”だが、コロナ禍でメジャーなハリウッド作品が公開延期となり、先のトランプ政権時代に保守化が進んで人種差別が拡大し、更に貧富の差が益々広がった今に本作を公開した理由が本編を観ていると感覚で伝わってくる。
人種的抑圧、貧富による格差社会、そのことによる不寛容の横行、そして止めを刺すようなコロナ禍、このような世界から理想郷へ逃れたいと誰もが心の底で願っているような気がする。
ましてや理想郷への道が心沸き立つフリージャズを彩られていたら最高だと感じる人もいると思う。
やっとニューヨークの映画館が入場制限はあるものの再開したというニュースを目にしたが、なかなかメジャー作品が公開されない分、このような“レア物”が上映されるのも“怪我の功名”と言えるかもしれない。