レインウォッチャー

サン・ラーのスペース・イズ・ザ・プレイスのレインウォッチャーのレビュー・感想・評価

3.0
ファラオ風衣装に身を包んだイカツめの黒人が、土星人を自称して詩を書きフリーキーなジャズをやる。
多い多い。情報が多い。ビレバンの床で産まれたんか。

そんなサン・ラさんは、'93年に地球を離れる(地球風に言えば、お亡くなりになる)までこの星で音楽(地球でいうところのジャズに似ている)を発信し続けた。今作は、その裏で彼が脚本・音楽・主演まで手がけて生み出した映画作品だ。

なんだかイロモノの匂いしかしないが、蓋を開けてみれば意外と(珍品レトロフューチャー映画の範囲において)ちゃんとしている。辿り辿れば2022年現在まさに公開中の『ブラックパンサー』なんかにも行き着く、アフロフューチャリズムの源泉を垣間見ることができよう。
黒人文化の起源を宇宙や未来に求める、つまり「ここではないどこか」他のユートピアへの逃避願望も含んだその思想が、今作の一見サイケでカオスな世界観に満ちている。Space is THE Place=宇宙こそ居場所、というわけだ。

宇宙から飛来したサン・ラが選ばれし者たちを地球から連れだし救済しようとするストーリーで、選ばれし者とはつまり黒人を代表とする虐げられたマイノリティたちのこと。ただし、黒人であっても資本主義や物質主義に毒された人物、要するにもっとわかりやすく劇中の表現で言えば「白人に媚びる」者たちは悪として排斥される。

また、宇宙船の原動力は音楽であると断言し、船の職員に応募してきた求職者には「創造者に報酬はないよ」とバッサリ。このあたり、彼の芸術観・価値観が窺い知れて興味深い。
他にも端端でかなりダイレクトに語られる、白人第一社会への憤り。個人的には音楽を思想の喧伝に利用するのはあまり好まないけれど…どうせなら折角の演奏シーンをあと3時間くらい足してくれたら良かった。

サン・ラは膨大なマテリアルを遺しており、これまで何度か色々な文脈で再評価されたりしている。彼の活動は今なお続いていて(彼のバンド、アーケストラも活動を継続している)、近年のBLM運動やダイバーシティ思想の浸透を見るに、一定の成果が生まれてきていると言えるのかもしれない。

おそらく、彼が再び帰還する日は遠くない。そのとき、わたしたちは船に乗せてくれるだろうか?幸福のオリジンがサン・ラの宇宙にあるかはわからないけれど、彼の音楽を受信する耳だけは失わないようにしておきたいものだ。