りっく

あの夜、マイアミでのりっくのレビュー・感想・評価

あの夜、マイアミで(2020年製作の映画)
4.2
4人の英雄が集う一夜を中心に据えた三部構成のような本作は、四者四様の白人社会におけるポジションや見られ方を冒頭で手際よく描いてみせ、一夜を経てそれぞれがネクストステージへと歩んでいく様を的確に物語ってみせる。

劇中でも印象的な台詞だが、本作の最大のポイントは、4人の黒人の英雄と観る側もカテゴライズしがちだが、同じ黒人でも肌の色合いにバリエーションがあり、それによって白人だけでなく、黒人の中でもいがみ合いは確実に存在するという多角的な視座である。

だからこそ、本作のマルコムXは英雄という外面を剥ぎ取られ、労働もせず、ムハンマドの言葉を借りて自分の言葉で話さず、白人と黒人と線引きしたうえで、白人を愚弄することで二項対立的に分断し、英雄をスポークスマンとして利用しようとする利己的で打算的な人間だと糾弾されたりする。現代における世界各地の分断の構図を、マルコムXというキャラクターによって切り込もうとした作り手の挑戦心は見事。

だが、英雄の皮を剥ぎ取り、互いに思想や宗教や政治的立場の違いをぶつけ合うことで、ステレオタイプではない、複雑な内面を抱え、同じように社会と対峙し生きているひとりの人間としてそれぞれが立ち上がるからこそ、第三部の嘘偽りのない覚悟を決めたそれぞれの歩みの力強さに感動してしまう。
りっく

りっく