ニューランド

フェミニズムの結果のニューランドのレビュー・感想・評価

フェミニズムの結果(1906年製作の映画)
3.6
☑️ ⑧『フェミニズムの結果』(3.6p)及び ①『催眠術師の家で』(2.8p) ② 『世紀末の外科医』(2.9p) ③『オペラ通り』(3.2p) ④『全自動の帽子屋兼肉屋』(2.9p) ⑤『カメラマンの家で』(3.0p) ⑥『フェリックス⋅マヨル 失礼な質問』(3.2p) ⑦『マダムの欲望』(3.5p) ⑨『キャスター付きベッド』(3.5p) ⑩『ソーセージ競争』(3.4p) ⑪『ビュット=ショーモン撮影所でフォノセーヌを撮るアリス⋅ギイ』(3.0p) ⑫『バリケードを挟んで』(3.5p) ⑬『銀行券』(3.4p)▶️▶️

この作家については『キリスト~』あたりがサイレント映画の史的展望の定番になってたりするので、遅い方だが20世紀の終わり辺から、少しは観てきた。13本50分でもこれ程纏めて観たことはなく、ドシッとした手応えを感じる。メリエスの類似形の見世物性から、斎藤寅次郎⋅キートン⋅チャップリンを引っ張って来るような、果てない追っかけ⋅スケール規格外エスカレート⋅悪戯っ気⋅ペーソスと社会性、の内容を持ってきて、シーンを後のカット細分前の⋅シーン間に代えて鋭い視角を流し繋ぐスケール、別撮り嵌め込み多いも顔中心の寄りサイズ入れ、画面の隅々に(時にメイン)に犬(といった動物キャラ)の配置の親しみ、といった複数カットや意図内構図の連ねと絡み、⑬ではパンニングもあった、といった映画話法の革新的⋅且つ親しみ深さの手法を物していった数少ない、エポック作家という以上に今の時代の作家主義に連なる現代的な、我々を作家独自の個性で包み込む圧倒的根拠の力を感じる。
ワンカット期の、退いた絵での多数人や(馬)車のスローめ逆転撮影のキャラや目的喪失(③)、作品が長くなってきての(といっても5分前後から10分強)、社会に於ける男女の主従⋅仕事と家庭⋅役割⋅仕草の逆転社会と再転覆(⑧)、『ギャング⋅オブ⋅ニューヨーク』みたく、乳離れ出来ない青年が、民衆暴動とその鎮圧の激動の場に行き会い⋅対峙⋅目覚める(⑫)、住居を追い出され野放図になる男の⋅唯一財産のベッドでの街かき混ぜ(⑨)、善行で貰った大枚も浮浪者の身なりでまともに相手されず(川泳ぎの者とこっそり衣類交換も⋅札毎を気づかす)(⑬)、といった当時社会への皮肉や批判をしのばせた作品らでも、ロケ場(背景書き割りも初期に一部⑦か⑧)の選択⋅画角⋅美術加えの素晴らしさ、役にはまって恐れぬ体技の衒いなさの全役者連、らの尋常なさはストーリーの捌きより、逆の未分化⋅混沌の地点をまさぐる様な力と賢明さが伝わり、幾分震撼する。楽で迷いから解放の整理⋅プロット重視以上に、表現の核⋅カオスのミューズ?に同時に戻り、どす黒さ残したままに⋅つき当ててく。
別撮り抜いた寄り(現地での寄りカットも一つあった気もするが⑦)の入れの、次々あちこちで出来心という確信犯の、他人の食事を目を離した瞬間⋅暫く気付かれず盗み食いと満足食べっぷりの茶目っ気おばさん(⑦)、犬の本能食い逃げに切れず付てく長いソーセージを延々危険に追うはめの店員や⋅掻き回され増える協力?人々(⑪)、らの単純めスラプスティック系(⑨も荒らされ⋅壊され⋅怒り追いまくる)も、ロケの構図と人(や犬)の移る変移と繋がりの見事⋅絶妙デクパージュ化に、格や意気が張り出し、表情取り出しの引けめ微塵もの自信が、全体で向かうバレエを想わせる、持って生まれたリッチ感。これらの引き立て役を差別化しない、表面を越えた群像⋅止まぬ動きの醸し出すカオスと聡明視線こそが、他芸術の香りによらぬ、真の映画的作家の誕生、それへの立ち会いの悦びを感じさせる。結構怖い。
他愛ない初期のメリエスのイミテーション、ステージ+映画トリックの、瞬時脱衣⋅着衣(①)や、人に模した人形の残酷通り越す各部位切断とスペアつけ直し⋅そして生身人間戻り(②)や、リアルめセット内のマルクスbro.ばり掛け合いやトリックでの、帽子製造機(④)や、写真撮影注文(⑤)らの、ワンカット1~2分作でもスッキリ消化許さぬ凝りがあり、また(彩色)カラー+出てきて引っ込む歌手のリップシンクロトーキーの、見事な艶やかさ作(⑥)まで、そのバリエーションや到達点は、この後の作家説明の講演を、日本人のを聴いてもと、パスした勉強嫌いには想像もつかない。
メリエスやリュミエールは何か遠い美しいだけの美術館に居心地悪く入ったような作品でしかなかったが、これは近しくまた結構底知れない恐さを覚える。現在の映画とならべても、アカデミー賞やキネ旬B10の作品賞の、平均クラスには優に匹敵する。(券買ってて観るつもりも迷走⋅結局見なかった、この後上映の)『奥様は妊娠中』の知性⋅才気には、今日観れた作品ではいまいち届かないとしても。
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