全編全カットがまるで絵画のような作品で、まさしく大人のための寓話だった。といっても愉快なおとぎ話ではなく、生と死を静謐に見つめた鎮魂歌であり、悠然とした時間が流れる森の記憶を辿る物語である。
舞台はスロヴェニアとイタリアの国境の忘れ去られた土地。そこは金色と銅色の枯葉に彩られた栗の森。
登場するのは年老いた棺桶職人のマリオと、若い栗売りの女性マルタ。それぞれに抱える想いは、去ってしまった者への哀愁と、戻らぬ者への恋慕。
届かない想いを抱いた二人を、豊穣な森が結び付ける。
語られる事も少なく、余白の多い物語だが、不思議なことにそれが心地よく感じる。
詩情豊かな映像美もあり、きっとその間に自然や色彩の移ろい、二人の人生など時間の積み重ねを汲み取れるからだろう。
いつしか時の流れの中で消えゆく土地だとしても、この寓話とともに心に残るものもきっとある。
余韻に浸る時、そこには必ず森の情景が思い浮かぶだろうから。