ambiorix

ザ・ホワイトタイガーのambiorixのレビュー・感想・評価

ザ・ホワイトタイガー(2021年製作の映画)
3.9
下層階級出身の主人公が金持ちの運転手になって貧困からの脱出を目指すお話。
とあらすじだけ聞くとなんか『パラサイト 半地下の家族』っぽいなと思ってしまいますが、策謀を巡らせながら階級を駆け上がっていくいわゆるサクセスストーリー的な要素に重きを置いた作品ではない。
理不尽な貧富の格差のただ中でもがき、「ニワトリの檻からの脱出」を目指す主人公バルラムの苦闘のさまを描く。
作中ではインドの光と闇の部分がしつこいぐらいに対比されます。地主と農民、欧米の進歩的な価値観とインドの伝統的な価値観、きらびやかなホテルの部屋と薄暗い地下駐車場のスペース、ピザとミールス…。地主兄弟が政治家への寄付の相談をしながら乞食を追い払うくだりなんかも象徴的ですよね。
で、彷徨(咆哮)の果てにバルラムがたどり着いたのは、憎むべき金持ちの思考や言動、さらには名前までもをそっくりそのまま上書きコピーしてしまうことだった。「インドで貧乏人が頂点に立とうと思ったら犯罪か政治的手段に頼るしかない」「俺は自分のやったことに後悔はしていない。なぜならそのおかげで檻から抜け出すことができたからだ」などと嘯く姿には共感できる反面なんともやりきれんものがありました。ここにいたるまでに払った犠牲があまりにも多すぎる…。
続くラストも印象的。主人公が去ったあと、彼のタクシー会社の運転手たちが怒りをたたえたような表情でじっと正面を見つめている。個人的にこのオチは『イヴの総て』的な解釈を取りたい。階級闘争は決して終わらない。次に寝首を掻かれるのはことによるとバルラムなのかもしれない。
インドなんだからどうせカーストが原因なんでしょ?とか言ってこの作品を遠ざけてしまうのはあまりにももったいない。巷でジョーカー事件(つっても日本で上級がターゲットになることはほとんどないが…)が多発する今だからこそぜひ見てほしいし見てよかったと思えた一本です。
ambiorix

ambiorix