くりふ

マ・レイニーのブラックボトムのくりふのレビュー・感想・評価

3.5
【袋小路ブラックスタジオ】

Netflixにて。予備知識なく見ていたが、あ、これ舞台劇原作かと途中で気付く。

後で調べたら“アメリカの黒人シェイクスピア”と呼ばれた、オーガスト・ウィルソンの戯曲を元にしているそうですね。

ジョージア州バーンズヴィルの森の中。野卑でありつつ女王な貫禄を見せるブルースシンガーが、集まった黒人聴衆を野太い喉で魅了する。“ブルースの母”と呼ばれた伝説的歌手、マ・レイニーの濃厚舞台だ。

一転し、舞台は1927年のシカゴ。彼女の歌に惚れ込んだ白人マネジャーが、地下のスタジオに一行を引き入れレコーディングしようとするが、マ・レイニーはひどく我儘。白人プロデューサーにも悉く反発し、録音はどんどん遅れていく。

バンドメンバーには独立を目指す野心家トランぺッターもいて、そんな混乱に乗じ、プロデューサーに取り入ろうとするが、総じて皆の亀裂はどうしようもなく広がってゆく…。

黒人差別を告発する戯曲で、心地よきカタルシスなど皆無。レンガ塀に囲まれた地下スタジオは始終、息苦しくとうとう、出口なしのカタストロフが…。

しかしこれが現実、と言い切られてしまいます。

マ・レイニーを太々しく演じるヴィオラ・デイヴィスはいっそ潔く、その我儘にもバックボーンがあるとわかってきて、説得されてしまう。

これが遺作となった、チャドウィック・ボーズマンのトランぺッターの小賢しさにも、ワケがある。これなら狂ってもおかしくはない。

史実を元に、実にイヤな物語に仕立ててあるが、いまだ黒人差別が途切れぬアメリカには必要だろう物語で、それを知ることは、どうでもいい邦画の脳内お花畑で蕩けるより、ずっと私には価値があります。

元の戯曲がよかったのでしょうが、不快なトーンを抑えつけてしまう、構成が見事でした。

また、エンタメビジネスが欲望産業であることを、改めて思い出させてくれました。

<2021.1.11記>
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