幸せのさちこ

くれなずめの幸せのさちこのネタバレレビュー・内容・結末

くれなずめ(2021年製作の映画)
3.6

このレビューはネタバレを含みます

なんとなく気まずい間、
脱力して交わす会話、
ふと訪れる沈黙、
テンションの上がるタイミング。
高校からの仲だからこそ、
共鳴するようにアップダウンする6人の感情。

そんな6人の空気感と、
交互に繰り返される
意味のある会話と実のない会話が
これ以上ないほどリアルな成人男性の群像劇。

過去と今を往来するたびに
少しずつ各々の変化が浮き彫りになる。
結婚して、冒険をしなくなったり。
社会に出て、周囲の迷惑に人一倍敏感になったり。
大人数でいる時の、一層上手な立ち回り方を身につけたり。

でも吉尾は変わらない。

みんなそれぞれの生活があって、6人での再会を喜びながらも心の中では自分の生活サイクルとのシーソーゲーム。楽しいけれど、帰りたい。吉尾以外は。

余興が駄々滑りに終わった羞恥心を苛立ちとしてぶつけ合う瞬間も、吉尾だけは落ち着いていた。

吉尾は、他の5人の思う『5年前の吉尾』のままで、
その記憶は少し(もしかしたらかなり)美化されている。

吉尾を美化していた自分達に気がついて、
けれどだからといって吉尾の短所を引き合いに出すこともせず
ただただそれに気づくことで吉尾の死を受け入れた5人。

結婚式で赤フンダンスを踊った吉尾はきっと幽霊でもなんでもなく、吉尾の死を受け入れられなかった5人が生み出した偶像。

5人それぞれの
吉尾との関係性、
吉尾との思い出、
吉尾の死との向き合い方、
描くエピソードの数自体は少なくても
一瞬一瞬の表情や空気感で全てが伝わる。

設定はかなりぶっとんでいるけれど、
この物語はきっと誰もが体験する現実世界のピースの寄せ集め。
しっかりと地に足のついた、
大人のための青春映画。



わたしは、
まるで修学旅行のような年末の夜のシーンがとても好きだった。
吉尾は結局、一度でもインドに行ったのだろうか。