なっこ

TOVE/トーベのなっこのレビュー・感想・評価

TOVE/トーベ(2020年製作の映画)
3.1
ムーミンが好きな人は多い

私もなぜか心惹かれる、けれどトーベの紡ぎ出したお話としてのムーミンを好きになったのは随分と大人になってからだったと思う。日本ではたぶんアニメのイメージが強く、かわいいキャラクターのひとつくらいの印象が強いに違いない。
芸術家としてのトーベ・ヤンソンに興味を持ったのは、フィンランドの芸術の一部として美術展で紹介されているのを見てからだったように思う。北欧神話の物語と同列に並べられているのを見て、そんなに深い世界だったのかと見直したのを覚えている。もともと漫画や版画の黒い線で描かれるイラストが好きだったこともあって、そこからはトーベ自身にもその芸術家としての人生に興味が出た。

映画では彼女の若き日の数年を切り取っている。
休日の昼下がりにのんびりとリビングでかけるような映画ではなかったけれど、良いお話だった。

自由恋愛の“自由”って一体何からの自由かしらね。
彼女が愛する人たちと出会っていく様子を見ていると、平凡に見えた彼女の顔がくるくると変わって見えた。本気な相手にほど自分をさらけ出すことは難しい。自分の魅力を分かってくれている相手には大胆でいられるのに多くの人から崇められるようなその人の前では少し気が引けてしまう。それを彼女は臆病だから、と言う。そうだろうか。その臆病さは誰にでもある。愛は押し付けられないし、受け入れてもらえなかったらという恐怖もある、自分に自信がなければなおさらそうだろう。

ヤンソンといえば、トーベ

今となってはきっとそうだろう。でも両親とも芸術家で父親の名声を気にしながら同じ芸術家の道を歩む彼女にとって、父の娘であることは、どういう意味があったろうか。
同じ道を歩む父と娘は、並び立つことができるだろうか。現在のムーミン人気を思えば完全にいまの世界の人はヤンソンと言えばトーベだろう。偉大な父を持つことは娘にとって幸せなことなのだろうか。

ムーミン一家の幸せそうな家庭の風景。どこか懐かしいその家族のあり方がその答えであって欲しい。絵画も挿し絵も壁画も全てやり切った彼女。彼女のその後の人生の成功の軌跡、映画はその始まりを描いている。

足りないものがあるから青春なのかもしれない。
ムーミンの物語にはいつもどこかさみしさがつきまとう。誰の心の中にもある空っぽな部分。埋まらない何か。そこに響いてくる気がする。
それは一体何なのか、分からないけれど、完全に埋めることは出来ずに進むしかないときもある。そう教えてもらった気がする。
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