垂直落下式サミング

キャラクターの垂直落下式サミングのレビュー・感想・評価

キャラクター(2021年製作の映画)
4.5
仕事の前の早朝の一服。私事ですが、今まさに禁煙中だから菅田将暉がタバコ吸うシーンがきつい。序盤は家や仕事場で吸ってるけど、売れっ子になってからは家で吸ってなくて、息抜きにいく居酒屋で一服。奥さんが妊娠して、いよいよ子供産まれるから気遣ってやめたんだろうな。団地に住んでた頃は、マグカップ灰皿にして怒られてたのに、新しい仕事場には灰皿らしいものはない。えらい!開幕ヤニカス着眼点で申し訳ない。
さて、連載漫画でアニメの製作が原作に追い付くことはあれど、現実に起きている模倣殺人が原作と同時並行していて、何なら追い越しているとなれば、コリャ大変。クリエイターが人の死をみてしまったことで、作品が力を得てしまった。
見事な映画でした。まず、ほとんどカメラが揺れない。静止画が動いているようなバチッとしたデジタル撮影の緊張感で、全編に糸が張りつめたような緊張感が持続していた。
基本的に、室内シーンなんかは全部がカッチリした定点だし、綺麗に横や斜めにスライドしていい構図になる。いくつかある手ぶれシーンは、登場人物の不安や焦りなどの心理や、事態のスリリングさを映像的に伝えるため、その場面々々でちゃんと意味があってのことなんだと思う。
役者たちの演技も、完全にストーリーの上にコントロールされている。特に菅田将暉。彼のカメレオン俳優っぷりが、この一本で堪能できてお得。何でもできる菅田将暉が、まったく何者でもないような役をやってる。迫真になったり棒読みになったり強気になったりオドオドしたりとキャラぶれぶれ、連載やめますって言ってたのに休載ってことで納得するくらい意思もぶれぶれ。彼の創作するキャラクターの弱さと、本人の個性のなさが、入れ子構造的に重なっているようだ。
脇を固めるキャラクターたちも、ガッチリ硬い。高畑充希はイイ女、実家に挨拶に行ったのに無口で口下手な夫のぶんも喋って、場を明るくしてくれる。いわゆるなサラリーマン刑事の役を徹底する中村獅童はさすがの存在感であるし、族アガリだというバイタリティでコミュ力を発揮する小栗旬は、こんな役がよく似合う。
そして、テンションが上がったり下がったり会話通じなかったりのFukaseは、なよなよキモキモ演技が当たり役。変な映画によくある量産型おしゃべりサイコパスじゃなくて、この役づくりは現実にギリいそうなキモ感のラインを攻めたもの。最後の絶叫にもちゃんと彼なりの筋が通ってて、彼なりの理由があって言ってる。こういうのが血の通った「キャラクター」なんだって思う。
現実から着想を得て架空の物語を膨らませ語ることの欺瞞と、その創作物が手に負えない現実となって追ってくる恐怖を、日本的な連載漫画の形態になぞらえる。アイデアの妙。
ひとりの作家が毎日毎週才能を削りだしながら筆を走らせるのに、人気がなくなれば無慈悲な打ちきりが待っている漫画連載と、不自由せず幸せに暮らしていても、運悪く死神に接触してしまえば今日が最後の日になるやもしれぬ人生が、強引に接続される。
殺人現場で目があった瞬間、本来なら交わるはずのなかったふたつの人生が、バチッと接合!家庭用コンセントに規格の違うゴツいプラグを後先考えず無理やり突っ込んだかのような、暴力的なまでの不自然。いつか絶対に短絡を起こすであろう状況と知りながら、この物語の外側に逃れられない。
あえて最初から絶対ろくなことにならない物語の前提が設定されることで、ずっと緊張感と薄気味悪さが持続し続けるし、ひいてはこの世界のコントロール不能さを肯定するかのような不道徳な倫理を観客がそのまんま受け取ってしまう。見事な雰囲気作りに成功していた。
大満足。ここ数年、邦画はちゃんとすごいもの作ってると思う。これはいいものでした。無料視聴に入れてくれて、ありがとアマプラ。


僕にとっては名作映画なんだけど、一緒にみてた彼女はいろいろ納得できなかったみたいで、それが僕にはない着眼点で面白かったから、その意見もちょい書き足しときます。
ドラマで大好きだった高畑充希ちゃん(もとい同期のサクラ)が、夫の売れない下積み時代を食わせてやってたのに、ちょっと仕事が成功したからって、すぐに言いなり家政婦みたいになってて嫌だったらしい。こういう「あなたを支える女になるわ。」ってのが気持ちよくなっちゃうタイプの人は危険だってさ。
週刊連載でイッパツ当たったからって、一年足らずでタワマン引っ越して生活水準バク上げとか金銭感覚やべーだろって。ごもっとも。何より仕事忙しいからって自分の子供の超音波検査の写真すら一切見てないのもヒドイよね。
やっぱ、真剣に人生してるから、こういう見方ができるんだろうなあ。すごいなあ。ファーストショットからヤニカス視点でみててわかった気になってたとか。俺の人生観なんて恥ずかしいよ、浅すぎて。