きゅうげん

ハウス・オブ・グッチのきゅうげんのレビュー・感想・評価

ハウス・オブ・グッチ(2021年製作の映画)
3.8
「仮面舞踏会でふたりだけ素顔のまま踊る」シーン好事家の歓喜する冒頭から、リドスコ・パワー全開!
彼にかかれば、暖炉の焚火も大理石の照り返しも映写機の透過光も照明となり、砂煙も朝靄も煙草も埃までもスモークになります。それにポップソングとクラシックの使い分けもナイスで、しばしば挟まるモノクロ写真撮影も印象的です。

上昇志向を内に秘めた貪欲なパトリッツィアと、上流階級ながらも聡明で謙虚なマウリッツィオ。あらゆるものを武器にのし上がろうとする彼女と、それを見透かしつつ迎え入れる一族の男たちとの、一挙手一投足や言葉の端に建前と本音とがにじみ出る絶妙な緊張感は、やっぱりリドスコ・クオリティの”品質”ですね。
そんなあまりにも豪華な出演陣、とくにレディー・ガガの八面六臂ぶりには目を見張るものがあります。素朴ながらも情熱的なイタリア娘が、欲望と権力に憑りつかれ暴走する変貌ぶりはスゴいの一言。
ただ経営をめぐって家族や個人が狂って壊れてゆく物語において、もうちょっと政治的かけ引きや陰謀劇らしいシビアさがほしかった。

それにしても本作のジャレッド・レトとか、『ザ・バットマン』のコリン・ファレルとかNetflixで配信予定の『マチルダ・ザ・ミュージカル』のエマ・トンプソンとか、わざわざ特殊メイクで太らなくても……ってのが最近多いんですけども。
ふくよかな俳優のお株を奪うような試みは、演劇としてもポリティカルにも危なっかしい感じ。

……てか誕生日パーティで行われてた暴力的な球技、パトリッツィアとおなじくドン引きしながら観てたんですが、あれ「カルチョ・フィオレンティーノ」っていうスポーツなんですね。なんでもサッカーやラグビーの元となった競技のひとつで、殴ったり蹴ったりしてもOKなんだとか……。