垂直落下式サミング

マークスマンの垂直落下式サミングのレビュー・感想・評価

マークスマン(2021年製作の映画)
3.5
『クライ・マッチョ』との二本立て鑑賞。
どちらも、老人が子供と旅するみたいな似たようなはなしなもんだから、比べてみると面白かった。イーストウッド最新作に関しては、僕なんかよりもよく知っている賢者が、ここフィルマークスでも他媒体でも有益なものを残してくれているだろうから、わたしからはこっちを共有しておくことにする。
お馴染みリーアム・ニーソンのアクション。麻薬カルテルに命を狙われていた少年を守るために、元軍人のリーアム・ニーソンが悪に立ち向かうってわけだ。お馴染みである。
そんで、本作のロバート・ローレンツ監督は、助監督やプロデューサーとしてクリント・イーストウッド作品に貢献してきた人とのこと。イーストウッド屋から暖簾分けした弟子筋らしく、ストーリーには一門秘伝の味付けがよくきいている。
些細な諍いから抗争に発展し、お互いに引っ込みがつかなくなってしまう序盤の展開は、正義の置き所を見失った近代アメリカ西部劇の定型であるし、枯れた男が他者との擬似的な家族関係の形成していく様に主軸をおき、ロードムービーの形式をとりながらマチスモが行き着く果てをみせていくのも、やはり後期イーストウッド作品っぽいところ。
メキシコカルテルに所属する見せしめ処刑部隊のリーダーが、アメリカに強い憧れを持っているかのような描写が随所に入れられていて、そういう細かいところでキャラクターを肉付けしていく律儀さが気に入った。
リーアム・ニーソンの家から盗んだ勲章を大事に持っていたり、オープンカーデートしてるカップルを想い耽るように見つめたりと、ほろ苦い切なさを申し訳程度に醸しているのがいい。
それでいて、ガソリンスタンドで働いてる女の子を殺す場面とかはちゃんと怖くていい感じ。無警戒な一般人に飄々と絡んでいって急に豹変するのがヤクザあるあるだし、監視カメラのハードディスクレコーダーごと雑に引っこ抜いてくる手慣れてる感もイケてた。
すでにアメリカ国内に仲間が何人もいて、クレジットカードの利用情報から追跡してきたりと、現代の犯罪組織らしい手口を使ってくるのも今風IT系。
ラストバトルでは、「望んでこうなったわけじゃない」と心情を吐露。彼も誰かに救われたかったのに、いつの間にか後には引けないところまで来てしまったのだと、内面の悲愴をタフさで隠してやって来たのだろうと、深みをみせる悪役だった。
それにしては、主人公のキャラクターが、ちょっと弱かったかな。リーアム・ニーソンは、キレたり、優しかったり、やっぱ諦めたりと、感情の機微が更年期かってくらい忙しないし、小僧のほうもクソガキなんだか利発なんだかよくわからない。わりと意志薄弱なジジイと、可愛くねえガキの旅は人間味にも触れていないため、ドラマとしてはちょっと物足りない。
犬はかわいい。完璧。やっぱカルテル許さねえ。