Hiroki

竜とそばかすの姫のHirokiのネタバレレビュー・内容・結末

竜とそばかすの姫(2021年製作の映画)
1.0

このレビューはネタバレを含みます

あらゆる風呂敷を広げるけど一切畳まずに演出だけで乗り切ろうと試みた挑戦的作品(婉曲)。

正確には脚本の違和感を演出で全く乗り越えられてなくて、ほぼ全員意味深なセリフを言うけど何も考えてなかったり行動の裏になんの動機付けもなかったりする。一言で言ってしまうと作中のあらゆる言動に説得力がまるでない。

中村佳穂さんの歌とアニメーションは本当に素晴らしいのでそこに関しては見る価値があると思うけど、ストーリー・脚本に関しては500円でも見ないレベルに酷い。具体的には(無限にあるけど)作中ラスト、竜の居場所を把握した鈴が高知から武蔵小杉の彼の元へ向かうシーン、DVをまさに行なっている現場に乗り込むというのにあろうことか途中まで付いてきていた大人が何故か鈴を一人で行かせてしまう。普通に女子高生一人で行ったら暴力沙汰に巻き込まれるという想像が働かないのか????それだけならまだしもバス乗り場で見送った大人たちが「鈴だけで大丈夫かねえ?」などとのたまっている。大丈夫じゃない。お前も行くんだよ。

それと鈴の幼馴染の男の子、幼い頃から鈴をよく気にかけてくれるかつ実は鈴のことが好きみたいな設定かと思ったらマジで中身が全然無い意味深発言と「大丈夫?なんかあった?」しか聞かないスカスカのキャラクターだった。ほんっとうに何のバックグラウンドも描かれず最後に「良かった。これで普通に付き合える。」って言ってたけど何が???????????????????と思ってしまった。全体的に動機が不明瞭なのでキャラクター造形が非常に粗い。主人公が母親の死をきっかけに歌えなくなった描写も「元々歌えた」という前振りがないのでゲロを吐く主人公から察するしかない。

見た後で確認したら今まで好きだった細田守作品はみんな奥寺佐渡子の脚本で、微妙だと思った作品は全部細田守の脚本で合点がいった。

それと今作の世界観であるUという仮想空間、これも「50億アカウントがある」以外の情報が出て来なかったので何の広がりや説得力も感じなかった。例えばサマーウォーズのOZはアカウントと現実の存在および権限が紐づけられているため、ミサイルを発射する権限を持った人間のアカウントがハックされればハックした側が自由にミサイルを打つことができる、という利便性と隣り合わせの危険性はストーリーの後半で大きく効いてくる。ところがUは「仮想現実である」以外の性質が描写されないので、ただただ人が集まっているだけでそこに何の活動や文化の芽生えも感じられない。したがってそこで起こるあらゆる出来事に対して観客は置いてけぼりにされる。VRアバターが剥がれて生身がVR空間にそのまま投影される(作中ではアンベイルと呼ばれる)ことに対しても、具体的にアンベイルされた人がどうなるか知らされないので危機感がない。世界を構成するベースとなる設定が全く生きていない。控えめに言って最悪である。

最近の細田守作品に良い噂を聞かないのでしばらく避けていたのだけれど、流石にサマーウォーズで手がけた仮想空間をベースとした世界観だしハズレないだろうと思っていた自分を殴りたい。

アニメーションと音楽、中村佳穂さんの歌は素晴らしかったので星5、脚本が最低なのでマイナス4で星1とします。頼むから脚本は自分で書かないでくれ……………
Hiroki

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