キツネとタユタム

竜とそばかすの姫のキツネとタユタムのネタバレレビュー・内容・結末

竜とそばかすの姫(2021年製作の映画)
3.2

このレビューはネタバレを含みます

幼少期のトラウマから自分の殻に閉じこもっていた少女が、ネット上で本当の自分を出せたことにより、ネットでの交流から現実世界でも自分としての生き方を見つけ選択していく物語。

批判的なレビューが少ない中、あまり批判はしたくないし、細かい設定が荒くても本筋が通っていれば良しと思う派の人間だったが、どうしても気になる点が多すぎてあまり乗れなかった。
誰かこの映画を知り尽くした人と話をして名作として納得したい。。

そうは言いつつも歌のシーンは軒並み素晴らしかった。歌以外のシーンが観てられないぐらい嫌いだなと思っていても、歌のシーンになると演出込みで非常に感動でき、悔しいかな涙が出てくる。
それほど感情の緩急を激しく揺さぶられた映画であり、その点ではとても心に残る一本になった。

まず全体的に主人公の行動への動機付けが甘いというか、なんでそうしたいのかっていうのが全然分からない。こちらの読み取りが甘いせいもあるのだろうか。。
主人公「すず(ベル)」のライブに急に入ってきたヒロインポジションの「竜」。すずはこの竜のことが気になり「あなたは誰?」と仕切りに思うわけだけど、その理由が全く分からない。
あのタイミングですず目線から見れば、SNSで荒らしをしていて嫌われてるだけのユーザである竜。
そんな情報が少ない状態で、「あの行動には悲しい裏がありそう」みたいな目線にいきなりなるすず。
ほんとあのシーンの細かな心境の変化を教えて欲しい。こちらが置いてけぼりになる。
それが映画全体の主人公の行動の動機付になるんだからもっと分かりやすく、納得いく形で描いて欲しかった。
あまりにも「すずが竜を追いかけたいほど気になる存在になる」という動機づけにしては情報が少なすぎる。

そして一番気になったのは竜の城の「美女と野獣」オマージュ演出。
これって許可取ったの?と思うくらいの「美女と野獣」要素が含まれていて、前情報何も無く見たのでヒヤヒヤした。
「現代版美女と野獣を目指しました」ということをインタビューで言っていると後から知ったけど、それでもどうなの?って思うくらい似てた。
玄関入ったすぐのエントランスは構造一緒だし、バラがモチーフで出てくるし、タキシード着て、ホールでカメラぐるぐる回しながら踊る演出もまんまだし。
襲ってくるジャスティンも、まんまガストンだし。
パクリと思われてもおかしくない作りを、監督のインタビューを聞いて、まぁそれなら良しと考えないといけないのってどうなのって思う。

細かく考えていくと、
・父親がほぼ夕飯のことしか聞かないのは違和感だし(それほど心が離れていたともとれるけど)、
・仮想現実であんなに自信満々にできるのに現実世界で何も変わらず引っ込み思案なすずも違和感だし(少しは自信過剰になってる表現がないと、あんなライブできる理由にならない)、
・母親の死に繋がったあの状況は、母親が単身助けに行く以外にもっと救える手段が残されていたはずだし(そもそも助けた子の親は?とか、ロープ結んだりとかして他の人たちと協力できたんじゃないのとか)、それが母親を死に追いやりたいだけの演出に見えてしまうのがとても悲しいし、
・高校生の女の子をDVをしてる父親がいるところに単身乗り込ませる合唱団のおばさまたちも信じられないし(いくらすずが決めたこととはいえ、危機感なさすぎ)、
ちょっと設定に対するノイズが多くあって吸収しきれなかった。

カヌー部のカミシンが、絶対的ないい人ポジションなのに「女性」や「女の人」ではなく「女」と呼称するのが嫌だなと感じるところとか、細田監督の人間観ちょっと古くない?と感じるところとかもノイズになる。

全体的に美しい表現と音楽に囲まれた最高の映画なのに、設定の深堀を放置したかのような出来に残念でならなかった。
キツネとタユタム

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