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竜とそばかすの姫のsomaddesignのレビュー・感想・評価

竜とそばかすの姫(2021年製作の映画)
5.0
サマーウォーズ+美女と野獣+あと何か

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幼い頃に母を事故で亡くした17歳の女子高生すず。母と一緒に歌うことが大好きだった彼女は、母の死をきっかけに歌うことを避け心を閉ざしたままだった。ある日、友人に誘われインターネットの仮想世界「U」に参加する。

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細田守監督のファンなので、ついつい贔屓目になっちゃう。いろいろヘンテコな部分があるのは認めるけど、少なくとも炎上するほど悪し様に言われる謂れはないと感じた。

細田監督、現実世界とは別の並行世界を描くの好きね。で、そっち側が夢の世界のように描きつつ、現実からの逃避先にしないのも面白い。現実の鏡像のように同じ苦しみを抱える世界〜または苦しみがもっと具体的に可視化された世界として描かれる。2Dセルアニメと3DCGアニメの表現の違いを、世界線の違いとして楽々行き来できちゃうのも凄い。キャストもスタッフも豪華絢爛、細田作品群の集大成を見た気分。セリフで説明せずに演出で語ることに全振りしてるので、一回で全部理解できたか自信がない。情報量ものっそい!

今作のモチーフになってる「美女と野獣」。考えてみれば野獣って今作の『竜』と同じく具体的な悪さが示されない。ルールから逸脱した存在ではあるものの、ああも迫害されるほどのことなのか。おぼろげなイメージが先行して人々のパンチングボールにされてる感じ。
監督作に通底する「虚実を越えて繋がる尊さ」が、今作だと集団になる強みと恐怖として描いてる。ネット自警団の正義感の暴走みたいなことって、この夏(五輪に際して)何度現実世界で見たことか。


リアルパートの高知県の風景が綺麗で和む。相変わらずフード描写が豊か。カツオのたたきが超美味そう(アニメで初めて見た!)なのと、舞台が何県かすぐ分かる親切設計。欠けたマグカップが喪失の象徴だし、いつまでも囲まれない食卓が家族間の隔絶。フードを描かないことで見えてくるフード描写もあるんだな。

リアルパートの高知県の山と川の美しさ。仁淀ブルーと称される仁淀川の青く澄んだ川の美しさ。印象的な沈下橋。市内を流れる鏡川の悠々とした流れ。川の流れが生活に密着してる風景がとても良かった。高知の川といば四万十川のイメージだったけど、高知市からとても遠いのをこの際初めて知った。
VR空間の描写だと、ただの小さい光の点が各アカウントだったり情報と意味をちゃんと持った光だったり情報の密度がものっそい。大きなスクリーンで見ないと伝わらないトコも多そう。

「サマーウォーズ」そっくりの導入部だけど、「アナ雪」「ベイマックス」のジム・キムがデザインしたBELLが超美麗。竜の鱗をモチーフにしたようなソバカスの模様が物語を補完するのも秀逸。

すずを演じた中村佳穂さん。不勉強にもこれまで存じ上げなかったけど、声優さんとしても全く違和感を感じず、歌パートも流石の歌唱力。millennium paradeの楽曲の世界観。細田守のある種ナイーブな世界観と合ってないような気もするけど、世界の多面性にも思えたからまあいいか。

どうしても褒めがちになってしまうけど、正直なところ絵も音楽も美麗で超豪華だが……総括すると「そうはならんやろ」に尽きる。特に終盤のあの展開は、大人チームの判断が乱暴。一人で行かせるのもどうかと思うし、行ったところで当然見つかるわけもなく「そこから先を考えてなかったんかい」と。亡くなったお母さんの行動をなぞる形とはいえ、あまりに無計画に突っ走りすぎ。翻ってお母さんの勇気ある行動も下げて見える。ラスボスを倒せた理由もよく分からないし、その後の彼らを考えると解決できてない気がする。

本来シンプルなハズのストーリーラインに、途中からあれこれ足したら破綻した感じ。無茶な増改築の結果、そよ風で倒れる違法建築が出来上がっちゃった。

序盤こそすずが正体を隠したまま歌うことで、本当の気持ちを吐き出せるようになる。徐々に現実世界でも再生していく筋が中心になるのが分かる。だがしかし中盤以降、竜が登場して以降は、竜の正体探しやネットのダークサイド(人間の暗部とも)、しのぶくんやルカちゃんのロマンスといった階層の異なるストーリーが並行して描かれるので、話がとっ散らかってく印象だった。なまじ絵と音楽が豪華な分、肝心の中身が空疎に感じてしまった。

すずが竜に惹かれる理由が分からないし、正体を隠した者同士シンパシーを感じたのなら、すず達が竜の正体探しに躍起になるの酷い。そもそもネット内のこととはいえ、竜の傍若無人や行き過ぎた行動はどうなのか。ネット自警団の暴走は問題だけど、行動の責任を問われるのは当然だと思う。「ごめん」でいいから謝罪くらいしようよ。

いろんな方向に散らかったストーリーを、終盤どうにかすずの決意/成長に集約させて、合唱して無理矢理大団円。歌やシーンは素晴らしいので、うっかり決着した気にされてしまいそうだった。が、この後のリアルパートがヤバかった。たったあれだけの情報で手ぶらで上京するのどうかと思うし、言い出しっぺのしのぶ君は一緒に行かんのかい!ヤバ親父の元にJK一人で向かわせるのもアレだし、守る誓いはどこへ? すずがヤバ親父に勝てた理屈もないし、その後の二人の状況が改善した風もない。ヤバ親父には精細じゃなく改心が必要だったと思う。(男手一つで二人の息子を育てるのに、厳しさを履き違えたことに気づく的な)

ことほど左様に、いいトコと引っかかるトコが半々くらいで、鑑賞中に自分の中で感動とガッカリが乱高下。何度も見返すと味わいが変わりそうだし、理解も深まりそうな細田守監督の集大成の厚みを感じる。が、何度も見返す意欲が湧かないのだ。


43本目
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