しん

MONSOON/モンスーンのしんのレビュー・感想・評価

MONSOON/モンスーン(2020年製作の映画)
3.8
戦争の記憶は表面上は風化したように見えても、社会の底で流れている。そんなことに気づかせてくれる佳作でした。

ベトナム戦争の終戦から長い年月が経ちました。私も生まれる前の出来事です。しかし親世代にとっては自分の青春時代の出来事ですし、そのインパクトは子供の世代にも受け継がれています。本作では若者たちの奥底に眠るベトナム戦争の記憶や傷跡が、ふとしたきっかけから表出することが繰り返されます。主人公が故郷に帰るという旅の物語であると同時に、他の登場人物との対話を通じて自分が知らない故郷を見つめ直す物語です。本当に静かでいい映画でした。

戦争の記憶というと、私たちはアジア・太平洋戦争の記憶を即座に思い浮かべます。しかし国によって、全然違うんですよね。当たり前ですが。そんな当たり前のことに気づかせてくれて、本当によかったです。何よりも、アメリカ兵の息子とベトナム難民の息子の対話は痺れました。身体では分かりあえても、交われても、その奥に眠るのものは交われない。甘くない現実を見せつけられました。
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