MasaichiYaguchi

カナルタ 螺旋状の夢のMasaichiYaguchiのレビュー・感想・評価

カナルタ 螺旋状の夢(2020年製作の映画)
3.9
イギリスのマンチェスター大学で映像人類学の博士課程にいた太田光海監督が、卒業制作の為にエクアドル南部のアマゾン熱帯雨林に暮らすシュアール族の所に1年間滞在して撮りあげたドキュメンタリーは、生と死、過去と未来が交錯する現代のジャングルに生きるアマゾン先住民の姿を浮き彫りにしていく。
取り上げられたシュアール族は、嘗て首狩り族として恐れられ、スペインによる植民地化後も武力征服されたことがない民族として知られている。
彼らは「チチャ」という口噛み酒を飲み交わしながら日々森に分け入り、生活の糧を得る一方で、アヤワスカをはじめとする覚醒植物がもたらす「ヴィジョン」や、自ら発見した薬草によって病気や怪我を治癒し、柔軟に世界を把握していく。
太田監督は人類学と映像制作をクロスさせた世界でもユニークな研究機関、英国マンチェスター大学グラナダ映像人類学センターに籍を置き、アマゾンに滞在しての映像制作を博士号の研究をする計画を立て、コーディネーターも付けずに現地で情報収集しながら、少ないツテを頼りに辿り着いたのがシュアール族の村。
この村は、アマゾン熱帯雨林の西端にあたる同国の南部、人口1万人ほどの小さな町から車で3時間くらいの奥地にあり、そこで村のリーダー的存在であるセバスティアンとその妻パストーラに出会う。
監督は彼らと対話を重ね、食事を共にし、「チチャ」を飲み交わして信頼関係を築いていきながら、森で生きる術を教わり、集落の一員となって暮らしてから撮影を始めたとのこと。
だから国も民族も違う、言語も満足に通じないのに、恰も同胞のような立ち位置で彼らと接しているのが感じられる。
太田監督は、本作について「この映画は、熱帯雨林への集合的なラブレター、精神的な旅と友情の物語」と語っている。
「自然との共生」を描いているという言葉だけでは網羅出来ない本作は、自然体のまま生きるということ、全てを一旦リセットしてフラットな状態で自分を見詰め直してみる、そういうことを通して世界を作り出しているもの、様々なマテリアル、環境や空気などと自分が繋がっていることを気付かせる作品のような気がする。