三樹夫

U・ボート ディレクターズカットの三樹夫のレビュー・感想・評価

4.2
自分の中で潜水艦ものは『眼下の敵』タイプと『深く静かに潜航せよ』タイプに大きく二つに分けてて、『眼下の敵』の正統後継者とも言えるのがこの作品だと思っている。物音立てず敵をやり過ごしたり、潜水艦が深海で沈むかどうかのサスペンスがある正統派の潜水艦ものだ。『深く静かに潜航せよ』タイプは潜水艦という密室内で内部対立が起こるやつで、他の映画だと『クリムゾン・タイド』とかがそうだと思う。
私が持っているBlu-rayはディレクターズ・カット版で、本編の長さは208分と3時間越え。

フランスを出発してスペインに一旦寄港して、そこからジブラルタル海峡(狭いうえに敵が網の目のように張っている。作中の表現では処女のアソコ、クリームをつけないと通れない。狭い路地に入ってしまった時に言ってみたい台詞)を抜けてイタリアへ行くというのがこの映画のUボートが辿った航路で、途中数々の困難がふりかかるわけだが、敵をはっきりとは見せていないのが作劇として功を奏していて(駆逐艦が遠くに見えるとかその程度)、敵に得体の知れなさがあっていつ何時どこで遭遇し攻撃してくるか分からないという、この映画の208分のほぼすべてに漂う緊張感が増すのに一役買っている。
U96の乗組員の一番の敵は何かというと閉塞感と海水だ。とにかく艦内は狭いし人と物で鮨詰め状態だし衛生状態も最悪で汚い。乗組員は髭ボーボーになるわ、悪臭漂い最終的にシラミまで発生し、閉所恐怖症に対する拷問みたいな様相を呈する。しかもそこに水圧が襲いかかる。深く潜れば潜るほどギシギシと音を立て、ナットは吹っ飛び計器は割れ艦内のあっちこっちから浸水という阿鼻叫喚の地獄。でも潜水艦ものを観ている時に、待ってましたとなる王道の演出だ。観客もあたかもU96の一員となり、動く鉄の棺桶による地獄潜水クルーズの世界に入り込み汗をかくひと時を過ごせる。

クラウス・ドルディンガーによる激熱BGMも光り、特にテレビでもたまに流れるU96(主に攻撃を仕掛ける時に流れてたやつ)とHeimkehr(ドイツ語で帰還とか帰郷という意味らしい)が良くて、外出時にU96を帰宅時にHeimkehrを聴くと日常生活でも高揚感が出る。
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