深獣九

エスケーピング・マッドハウスの深獣九のレビュー・感想・評価

3.5
まず言っておきますね。この映画に興味を持たれた方は、ぜっっったいにアマプラのあらすじを読んではいけません。ぜっっっっっっったいにだッ!!!

物語は1887年のニューヨーク。ブラックウェル島に建つ、精神病患者収容施設が舞台。患者に対する仕打ちを主人公が改善しようと奮闘する姿が、ミステリー要素を絡めて展開される、という話。
見どころはこれ。

◯当時の精神病患者収容施設の劣悪な環境
◯謎の女ネリー・ブラウン
◯主要人物みんなイかれてる

◯当時の精神病患者収容施設の劣悪な環境
まず衝撃を受けるのが、1887年の精神病患者収容施設の劣悪な環境。
管理者側と患者の食事格差は、主人と奴隷くらいある。いや患者は家畜の餌レベル。

教育と称した虐待は日常茶飯事。意味もなく石を運ばせるとか、捕虜収容所の拷問。

入浴は冷水を浴びせるだけ。体を乾かそうと窓を全開にし、雪混じりの寒風に晒す。

極めつけは“しつけ”と呼ばれる拷問で、黒くて大きい蛭を体に吸い付かせ血を吸わせるというもの。
われわれのような頭のネジがゆるい者からすると「もう一声!」なんてかけ声を出しそうだが、まともな病院ですることではない。
おそらく経営は公金で成り立っているのであろうから、横領着服も疑われる(描写はされてない)。

そして最大のポイントは、実話ベースで作られているということ。
この手の話は現代でもけっこうあると聞いている。精神病患者収容施設ではないが、最近では入国管理局での収容者に対する仕打ちが話題になった。命を落とした方もいる。
100年以上も前から存在する人が作った地獄。私たちの身近なところで、まだ続いていると思うとゾッとする。

◯謎の女ネリー・ブラウン
主人公である。彼女がなぜ記憶をなくしたのかが、物語を読み解く上で大きなポイント。まあ実はそんなに難しい話ではないのだけれど、そこが明かされたクライマックスに、彼女の行動や心情がすべて腑に落ちる。そこまではけっこうもやもやするのだ。たいそう暴れまわるので。乞うご期待である。あ、くれぐれもアマプラの(以下略

◯主要人物みんなイカれてる
収容所の所長(寮長)は、昔ながらの教育(虐待)が最善なのだと一途に患者を苦しめる。
ネリーの担当医は、最初っからなんだかキモい。
太った看護師は味方かと思ったらすぐに裏切る。

といったところだが、私に言わせれば主人公も相当なプッツン女(死語)だ。イカれてるなあこわいなあと思う。

ひとつ残念なのは、これだけの玉をそろえているのに、中途半端感が否めないということ。ホラーのようなゴアはないし、イヤミスのように振り切ったヤバ女がいるわけでもない。ちょい意識高いドキュメント映画として、成功させたかったのだろうか。なんだかちょっと鼻をつまみまんでしまいました。実話なので仕方ないかもしれないけど。

ハラハラドキドキする場面はしっかりあったし、つまらないわけではないので、興味のある方はぜひ。
最後にちょっとネタバレするので、未鑑賞の方はブラウザのバックボタンを押してからいいねしてください笑


















裏切った看護師をネリーがラストで許したのは、のちのち収容所の実態を喋らせようと恩を着せたんだよね。ムッチムチがガリッガリになるまでネタを搾り取ろうとしてるんだよなぁ。売れるために精神病院に潜入捜査しちゃうところとか、そういうジャーナリスト魂、この映画で最もイかれてるのはネリーだと思う。闇のジャーナリスト魂も、100年を越えて受け継がれてるんだなあ。人間とは怖ろしい。
深獣九

深獣九