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漁港の肉子ちゃんのsomaddesignのレビュー・感想・評価

漁港の肉子ちゃん(2021年製作の映画)
5.0
元気出せ 飯を食え

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大食漢で大らかで男にだまされやすい肉子ちゃんと娘のキクコ。去った男を追って流れ着いた北の漁港。肉子ちゃんは漁港の焼肉屋で働くことになった。太っていて不細工で明るい……キクコは何かと目立つお母さんが最近少し恥ずかしい。ちゃんとした大人なんて一人もいない。それでもみんな生きている。生きてる限り恥ばかり。

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原作読んだハズだけど、漁港が舞台で肉子ちゃんが出てくる以外ビタイチ覚えてない。

観終わってジーンとくる作品だけど、決して説教臭く教えを説くわけでなく、まして感動ポルノ的に涙を誘うわけでもない。ひたすら切なさに寄り添い、右往左往する人の業を優しい視点で描く筆致が温かい。心の柔らかい部分にタッチするような、滋味溢れる物語。吉本印に偏見ある人にこそ薦めたい。

明石家さんまが原作に感銘を受けて、自身でアニメ化に踏み切ったとか。思えば明石家さんまという人は、いつも家族の在り方や温もりを求めて見える。あまり語ることはないけど、複雑な家庭環境や大竹しのぶとの結婚生活、彼女の連れ子、実娘との家族関係。血の繋がりより一緒に過ごした時間の尊さをすごく大事にしてそう。事務所の壁を越えて後輩芸人の面倒見いいのも、擬似家族っぽくて『家族』への羨望が奥底にあるのかもしれない。

その辺の複雑な心情を推し量って肉子ちゃん役を演じる大竹しのぶの胆力よ。縁故キャスティングかと思いきや、プロジェクト初期から想定されていたとか。オファーする方もすごいが、受ける方もすごい。

アニメは流石のstudio 4℃。
美麗な世界観にコミカルな肉子ちゃんの造形が違和感ありつつしっかり馴染む。図らずも渡辺歩監督の前作「海獣の子供」に連なる、命の連鎖の物語でもあって、主要スタッフが前作から連投(目の演出とかモロに海獣の子供と同じ)。勝手知ったる座組みでノビノビ作ってる感じがした。

キャラクターデザイン・総作画監督を務めた小西賢一さんは渡辺歩監督の前作「海獣の子供」から引き続きの登板。今敏監督「千年女優」「東京ゴッドファーザーズ」といった作品にも参加した、日本アニメ界のレジェンドクラス。さらに長年高畑勲監督と共に「となりの山田くん」「かぐや姫の物語」などに参加して縁か、劇中やたらとジブリオマージュ(特にトトロ)が散見されて楽しかった。
さらには美術監督の木村真二さんは「トトロ」の背景に参加してた方で、有名なバス停シーンを担当。今作で30年以上ぶりにセルフオマージュを捧げることになった。
なんなら、バスの乗客のご老人。宮崎駿そのものに似てたし、司馬遼太郎の「峠」を愛読してた。これもオマージュなんだろか?

やたら美味そうな食べ物が出てくるのもジブリ的。フード論者も納得のフード描写が続く。二人で作るフレンチトーストを通じた関係性(誰と誰が作って、どう食べるかまで)の不変性もいいし、おにぎりでつなげる親子の情もいい。おむすびとはよく言ったもんだ。ミートソーススパゲティで分かるキクコの家事力や肉子ちゃんとの結びつきも分かるし、なんと言ってもミスジの肉々しさ。滴る肉汁が、まー美味そう。あの塊肉を豪快に焼くのは、賄いにしても豪華すぎる・羨ましい。
(あの厚さの食パンだと、前日から卵液に浸けないとフレンチトーストは厳しい気もするけど、まあいいか)


それにしてもプロデューサーの人脈か人徳か声優陣が超豪華。肉子ちゃんの大竹しのぶは最初こそ違和感を感じたけど、見終わってみれば「この人しかいない」と思わせる、マイペースで大らかで慈愛に満ちた演技で納得のキャスティング。

キクコ演じたCocomi。声優初挑戦だし、親の七光りとは言わせない圧倒的ヒロインぷりに痺れる。関西弁を中心にいろんな方言が入り混じるキャラってだけで大変なのに、思春期の入り口にいる複雑な少女の心の機微が感じられてよかった。
他にも花江夏樹のミステリアスだけど誠実な人柄が伺える二宮。奔放てより未熟な女性・みうを演じた吉岡里帆。セミの宮迫博之etc…エンドロールで豪華キャストに気づいて驚くレベル。


西加奈子原作だけあって、セリフがパンチラインばっかし。
学校でややこい人間関係を目の当たりにしたキクコが、肉子ちゃんに「今日は学校どやった?」と聞かれて「ふつー」と答えるシーン。「普通が一番なんやで」と返す一連が尊い。「普通がなんだか気づけよ人間」とは人間発電所の名リリック。なんでもない日常が連綿と続く豊かさ、有難味にパチンと気づかされる。
他にも「生きてる限りは迷惑かける」。恥をかくこと・傷つくことを恐れず、お互い様くらいの気持ちで他人を受容する。前向きに、あるがままに受け流す。人生のコツみたいな要素を煮しめたような映画で、観終わってからジワジワと味が広がった。


余談)
今作に感動したMISIAがラジオでうっかり「プ○ルの1億倍面白かった!」て本音すぎる感想を喋っちゃったのも印象深い。そのあと明石家さんまを通じてヤングタウンで釈明してたけど

33本目
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