サラリーマン岡崎

戦場のメリークリスマス 4K 修復版のサラリーマン岡崎のレビュー・感想・評価

5.0
あの名曲を劇場で聴ける体験は身震いがした…。
この映画自体も最後の劇場公開、観れてとてもよかった…。

戦闘シーンは一切出てこないこの映画は反戦を訴えているわけではない。
何を訴えているかは人によるのかもしれない。
それほど余白があり、心の中に種として残る、セリアズがヨノイに対して言った様に。

戦争をしっかり知らない僕にとっては、本当に不思議な映画だった。
捕虜させる側・させられる側は完全に敵対関係があると思っていた。
しかし、この映画は日本軍と捕虜の外国人との敵対関係でもあり、信頼関係もある、不可思議な関係性を見せてくる。
そして、日本軍大尉が抱く、捕虜の軍人に対する恋愛感情。
敵対関係という壁もあり、性の壁もある中で、ヨノイ大尉が感じている葛藤とそこから生まれる矛盾した行動。
本当は捕虜たちを苦しめたいわけではないけど、立場としては執行しなければいけないし、
けれでもそんな気持ちに苛立ち、捕虜たちにも当たる。
人間の弱さと強さのぶつかり合いをも、戦場では起きていることを僕たちは知る。

そうやって、苦しみが渦巻く戦場の中で、
あの有名なキスシーンや、タイトルにもなっているハラ軍曹が「Merry Christmas, Mr.Lawrence」と初めに言ったシーンは
彼らがある意味苦しみから解放された瞬間だからこそ、
不思議と暖かい気持ちになるのだと思う。
弱さを受け止める気持ち、自分が正しいと思う行動で人を救い笑い合うこと、戦争という人の感情や理性がおかしくなる場所でその当たり前だけど出来ない人間らしい行動がとても素晴らしく見えてくる。

それと共に流れる教授の名曲は、
雪が一切出てこないこの映画の中で、雪が降る様な鐘の音で切なく物語を包み込む。
どうしようもない規則と自己の感情の間で揺れる葛藤と人を受け入れる優しさを
冷たい雪の痛々しさと、でも白く綺麗に包み込む優しさで表現している様。
色々な感情が心の中で残り、僕たちの心のヨノイ大尉の様に、葛藤した気持ちが生まれる。

ヤバい、本当に胸が苦しい。どうしたらいいんだろうかこの気持ち。