イトウモ

ボストン市庁舎のイトウモのレビュー・感想・評価

ボストン市庁舎(2020年製作の映画)
4.0
主役は間違いなく2018年当時のボストン市長マーティウォルシュなのだろう。医療費の高騰に苦しむ高齢者には病気で亡くなった自分の父親の話を、ラティーノの労働者にはアイルランド系の移民だった先祖の話を、治安維持には自分を巻き込んだ連絡網の話をする。『ボストン市庁舎』の一つの都市、一つの行政機能という巨大なナラティブを彼と彼の家族という「喩」によって一つの体のナラティブに収めようとする作劇は、菅とローヴィチの王の身体の話を連想した。ウォルシュの身体はむしろトランプ政権と戦う多様性と民主主義の守護者の身体なのだが、シークエンスの転換に市街の風景を映していくときに、これもチャーリー・カウフマンの『シネクドキ・ニューヨーク』のことをなぜか連想し、見ているうちにはなぜ連想したのかわからなかったがあれも、都市を身体の喩で見る話だと考えることはできる。

ここのエピソードとしてはイラクに派遣されていた青年の話が一番印象に残る。子供の頃から近所に自分の名前と同じ名前の交差点があり、それは自分の名前の由来になった、第二次世界大戦でイタリアで亡くなった叔父の名前に由来するものだった。イラクからの帰還兵でもある彼は30歳の誕生日にオークションか何かで売りに出されている、叔父のものだったらしきライフルを発見し、そこには叔父が亡くなるまでに書き記した彼の戦跡を伝えるヨーロッパの地名が書き込まれている。家族に内緒でこの銃を買った青年は、わからなくなって近所の偏屈爺さんにそれを見せびらかしにいく。この爺さんは沖縄地上戦の生き残りで毎日同じ椅子に座ってクスリとも笑わないで不機嫌そうに過ごしているが、彼が持ってきたライフルを目にするとぱっと目を輝かして、家に招き入れ引き出しの奥から何か金属片を見せる。「これは日本兵から奪った金歯だ」と。